2020.09.28
Category:教員
日本映画大学国際交流センター 特任教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)顧問(もと代表理事)
* 現在、多くの政治、経済、社会、文化課題を抱えながら、世界は新型コロナ・ウイルスの脅威にさらされ、その解決が求められている。現状では、まだこの感染症蔓延に対抗しうる治療薬および予防ワクチンが開発されていない。新型コロナは、健康・公衆衛生の問題にとどまらず、多くの国の人々が、仕事と収入、さらに住まいを失うなど、深刻な経済、社会問題にもなっている。個人として感染・発症を免れても、経済的社会的生命が傷つけば、生きてはいけない。
筆者は、医療従事者ではないが、1980年代以降、アジア・アフリカの紛争地域(多くは熱帯に属し、マラリアなど感染症の蔓延地域)において、NGOや国連機関の緊急人道支援、難民救援の活動に関わってきた。近年、身近な貧困や地域の医療問題にも関わる。
最初の感染は、2019年中国湖北省で確認された。今回の感染に関しては未だ検証中の部分も多い。日本でも新型コロナによる感染が広がった今年の一月末、ドキュメンタリー映像を通して、重症化した海外の患者さんの声を聞いた。「息を吸うたびに、無数のガラスの欠片が肺に突き刺さる感じがした」、「肺に水がたまり、溺れて息ができないような死の恐怖」など。どのような重病も恐ろしいが、これら急性呼吸窮迫症候群患者の証言により、その痛さや不安感・恐怖感がリアルに伝わり、当初、「こじらせた風邪」程度ではないかと軽く見ていた私の態度を改めるきっかけとなった。なお、新型コロナは呼吸器での症状が一つの典型であるが、実際には血管を通じて、消化器官、腎臓その他内蔵、全身に広がりうる。
ある意味、逆説的な事象もある。私たちの身体は、内在する免疫システムによって守られていて、体内細胞の分泌するサイトカインが、体内に侵入したウイルスと戦う体制を制御する重要な役割を果たすのだが、その生産が過剰になる(「サイトカイン・ストーム」)状態が生じると、気道閉塞や多臓器不全を起こし、人を死にいたらせることもある。このサイトカイン・ストームも高齢者、基礎疾患をもつ患者に起こりやすい。
他方、過去約9カ月の経験で、①石鹸を使った手洗いやアルコール消毒の徹底、②防ウイルス・マスクの正しい着用、③ソーシャル・ディスタンシング=Social Distancing(感染症の広がりを止めるために人々が物理的距離をとる)を守ることふくめ、密閉、密集、密接(三密)を避ける、ということで、個人も社会もこの感染から自らをある程度防御できることが分かった。自宅を拠点にオンラインでの仕事、会議も増えた。
しかし、医療従事者はじめ、交通機関、警察・消防、役所、食物・物品の販売、輸送、その他企業・団体で、通勤電車ふくめ、三密状態の中で働く人々(経済・社会基盤の働き手=エッセンシャル・ワーカー)が感染の危険に身をさらしながら社会を回している。その恩恵を受け、在宅勤務ができる身としては、感謝するのみである。
* 以下は、製作会社パーティシパント・メディアとコロンビア大学公衆衛生大学院が制作した啓発動画である。(ギャガ公式チャネル)
ケイト・ウィンスレットが手洗いの重要性について、マット・デイモンが、Social Distancing(感染症の広がりを止めるために人々が物理的距離をとること)の重要性について語る。
2020年9月時点、治療薬、予防ワクチンがともに開発されていない状況で、新型コロナ・ウイルスは世界で蔓延している。 2020年9月17日現在、世界の感染者数は、3千万人を突破した。感染者数は30,003,378人となり、死者は、943,203人となった。(米国、ジョンズ・ホプキンス大学集計。CNN報道。なお死亡者数については、9月中にも100万人を超える)
ワースト一位は米国:感染者数 6,605,733人。死亡者数 195,915人。二位はインド:(感) 5,020,359人。(死)82,066人。三位はブラジル:(感)4,382,263人。(死) 133,119人。さらに世界全体では、一日に新規感染者は30万人、死亡者は、5000人の割合で増えてきている。
感染者数は増加しているが、8月以降、重症者、死亡者の人数、割合は減りつつある。また重症化しやすいのは、60代・70代以上の高齢者、基礎疾患(がん、腎臓病、肺疾患、重篤な心疾患、免疫不全、高血圧、糖尿病、肥満など)のある者、喫煙者と言われている。一般に女性より男性の方が、重症化率、致死率が高い。
10歳未満、10代~40代・50代の人々は、感染しても無症状、軽症ですむ割合が多い。とはいえ、各人の持病、体質、健康状態、免疫力などによっては、重症化し命を失うこともあるので、油断は出来ない。また一人の感染から、家族、友人、同僚や社会全体に広がるので、その意味でも「うつらない、うつさない」でお互いと社会を守らねばならない。
感染者数の多い主な国 (9月17日 日本・厚生労働省集計)感染者数 死亡者数
感染者数 | 死亡者数 | |
米国(北米) | 6605733 | 195915 |
インド (アジア) |
5020359 | 82066 |
ブラジル (中南米) |
4382263 | 133119 |
ロシア(欧州) | 1069873 | 18723 |
ペルー (中南米) |
733860 | 30812 |
コロンビア (中南米) |
728590 | 23288 |
メキシコ (中南米) |
676487 | 71678 |
南アフリカ (アフリカ) |
651521 | 15641 |
スペイン (欧州) |
603167 | 30004 |
アルゼンチン (中南米) |
577338 | 11852 |
総じて、カナダを除く北米・中南米の国々、インド、ロシア、南アで感染者数が多い。とくに米国とブラジルでは、トップ(大統領)が、今回のコロナ禍の危険を軽視し、マスク着用、人々の密集などへの対策にも消極的であった。インドでは当初厳しい「ロック・ダウン」を行い、大都市部での防御が成功したと見えた後、対応をゆるめ、結果的に都市スラム・農村地域で感染が拡大した。ただし、検査やその集計が十分に行われていない国もあると推測される。
9月から欧州各国での感染者数が再び増加、フランス、スペインで一日10,000人を超し過去最悪となり、英国でも4,000人を超し、欧州の各地域で外出制限、営業制限が再開された。(日経。9月22日)
日本は、9月26日現在、感染者81,712人でワースト40位前後。死亡者は1,546人。回復率91.17%である。(クルーズ船『ダイアモンド・プリンセス』号を除く。)なお人口総数と感染者数はある程度比例するので、人口10万人(あるいは100万人)あたりの感染者数、死者数も重要である。次回紹介する。
そもそも、感染症とは何か。人類が狩猟・採取中心の生活から、牧畜を伴う農業定住生活に移行する過程で、感染症の原因となるウイルス、細菌などが、本来宿主とした家畜・小動物を経て、人間に感染するように進化していった。【たとえば、『銃・病原菌・鉄~1万3000年にわたる人類史の謎(上・下)』(ジャレド・ダイアモンド著。草思社。2000年)の第3部「銃・病原菌・鉄の謎(家畜がくれた死の贈り物)」に詳しい。】
なおこの新型ウイルス名については、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV)が2月7日までに、SARS(重症急性呼吸器症候群)を引き起こすウイルス(SARS-CoV)の姉妹種であるとして「SARS-CoV-2」と名付けている。
この新型コロナ・ウイルスの特徴を考える。日本の感染症法では、第二類(結核、SARS、一部の鳥インフルエンザ等)相当の指定感染症である。現在、第二類相当だと、陽性者は軽症でも入院勧告を受け措置がマストになり、病院、医療現場の負担が増すために、第二類から外す検討が行われている。
第一類のエボラ出血熱との比較で、特徴を見てみると、
エボラウイルスの自然宿主は、オオコウモリ科のフルーツコウモリと考えられているが、宿主や感染動物(ゴリラ、チンパンジー、サル、ヤマアラシなど)の血液や分泌物、臓器、その他の体液などと人間が接触することにより、ウイルスは人間社会に持ち込まれる。その後、ウイルスに感染した人の血液や分泌液、体液、臓器、そしてこれらに汚染された物体(ベッドや衣類など)に皮膚の傷や粘膜を通して直接接触することで人から人に感染が拡大していく。感染の初期から重症化しやすく、死亡率も高いので、罹患者が発症現場から遠方に移動することが難しい。したがって汚染地域のなかで一気に感染が広がり、多くの死者が出ることになる。
新型コロナ・ウイルスも恐い感染症であり、感染力は非常に強い。また感染から発症まで1~14日かかるので、その間、感染者が空路ふくめ大きく遠くまで移動できる。そのため、一月以降、中国湖北省から、イタリア(特に北部)、欧州へ、あるいは日本、アジアへ、北米・中南米、豪州などへ広がっていった。
3~5月頃をピークとする世界の第一波では、いまより相対的に少ない検査数および感染確認者数に対して、重症化率が約20%、致死率が約5%(最高7.3%)と言われていたが、7月以降の第二波では、重症化率10数%、致死率3.3%まで低下した。
日本に関して、忽那賢志医師は、“致死率、「第1波」は5.8%で、「第2波」では、8月19日時点で0.9%でした。70歳以上では「第1波」は24.5%、「第2波」は8.7%と大きく低下しました。推計を担当した(国立感染症研究所)鈴木基センター長は、「ウイルスが弱毒化した説は考えていない。検査対象の拡大により、無症状や軽症例が多く見つかるようになったため、致命率が下がったとみられ、「第2波」の数値の方が、病気の実態を、より表している可能性がある」と話しています。”と述べた。(感染症専門医。国立国際医療研究センター所属)
現在の世界状況を予言したような映画『コンテイジョン』の事例では、第一感染者であると思われる、一人の米国ビジネスウーマンの香港から米国へ動くなかで、直接間接の感染者が日本、アジア、欧州へと広がっていった。「ひとは、毎分3~5回(一日に数千回)、顔に触れ」というセリフもある。(2011年作品。スティーブン・ソダーバーグ監督。)
コロナ・ウイルス感染症を描いた映画『コンテイジョン』2020年の世界と酷似する内容
* WHOによる“COVAXファシリティ”(一部政府や企業によるワクチン独占を防ぎ、貧困家庭にもワクチンを届ける共同の試み)と、各国政府によるワクチン(および治療薬)開発競争についは次回書きます。
新型コロナ感染拡大や、ワクチン開発ともリンクする、米国大統領選挙、やはり関連する 中東(パレスチナ・イスラエル、レバノン)情勢も次回レポートします。