2020.10.05

Category:教員

『世界のいまとこれから ~ 新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)』巻の弐

日本映画大学国際交流センター 特任教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)顧問(もと代表理事)

 

 

*「見えない」ウイルスや感染症の話は難しいうえに、医師同士あるいは感染症研究者同士の間で意見が違っていたりすると、一般人は非常に迷ってしまう。無論、医療ふくめ専門が細分化されている今日、また経験やその年数などでも、病、ウイルスの世界の見方も違うのだろうとは思う。他の課題(政治であれ、経済であれ、また原子力発電の問題、気候変動の問題など)でも同じことであるが、素人であっても、出来るだけ自分で調べ、自らの頭で考え、自分なりの見解をもたねばならない世界に生きている。

 

新型コロナ感染症に関して、ある専門家は「東京も、2,3週間後には、一番酷い時(4-5月)のニューヨークのようになる(一日1000人を超える死亡者)という予想をし、他方、日本では感染者数も重症者数も死亡者数も、欧米諸国に比べて、一桁少ないから、重症者ケアを中心にすればよいという分析もあったりする。警戒するに越したことはないので、常に警報は必要であろう。他方、感染症が広がらないよう、経済、社会、文化活動を協力に閉じてしまえば、職業・活動分野によって、経済的に締め上げられてしまう現実がある。中には極端で悲しい選択をしてしまうケースも増えているように感ずる。

ほかに、日本をふくめ東アジア(加えて豪州、ニュージーランド)で、相対的に感染者や重症者、死亡者が少ない理由について、「ファクター X」探しが行われている。

 

今の東京、「2,3週前のNYと近似」”とコルビン麻衣医師が警告 2020/04/01 TBS Note

 

同時期NYブルックリンの救命病棟「トリアージ=治療の優先・選別」同04/05 BBC

 

 

 

 

 

1)治療薬、予防ワクチンに関して

 

さて、目に見えず、怖い新型コロナ・ウイルスでも、治療薬と予防ワクチンが出来れば一定対抗できる。日本では、この10月01日(木)から季節性インフルエンザ・ワクチンが受けられる。「副作用への恐怖」などの理由で、ワクチン接種を好まない人々も多い。それからまた、ワクチンも絶対ではないので、感染/発症がゼロになる訳ではない。

まず、次の4のカテゴリーのコロナ・ウイルスの特徴を確認する。「かぜ」とも書かれている「ヒトコロナウイルス(4種類)」は、季節性インフルエンザと呼ばれることもある。通常いまごろ10月頃から、秋・冬季に流行する。上記のように10月01日から予防接種(最大6300万人分)が受けられる。 厚生省では「65才以上」「60才から65才未満の慢性高度心・腎・呼吸器機能不全者等」を優先する方針である。他方、クリニックなどの現場では、こどもや一般の大人など希望者には接種しているようである。(筆者も10月02日、川崎市内のクリニックで受けた。そこでは高齢者でなくても希望者へのワクチン接種も行っていた。)

* 日本映画では『復活の日』(監督:深作欣二、出演:草刈正雄、オリビア・ハッセイなど、1980)、『感染列島』(監督・瀬々敬久、出演:妻夫木聡、檀れいなど、2009)などが記憶に残る。

 

(C)2009 映画「感染列島」製作委員会

(C)角川ヘラルド映画

 

 

 

 

 

 

「コロナ・ウイルスとは?」 忽那賢志 感染症医 Yahooニュース 2020/09/13

 

 

・季節インフルエンザ・ワクチンの、新型コロナへの有効性はあるのか

 ① 今シーズンの「かぜ」ワクチン接種には重大な意味がある。米コーネル大学のグループがイタリアの高齢者を対象に調べたところ、インフルエンザ・ワクチンの接種率が40%の地域の新型コロナ死亡率は約15%だったが、70%と高かった地域では6%まで低下していた。また、米ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らが今年6月10日までの新型コロナによる死亡者とインフルエンザ予防接種率の関係を調べると、高齢者の予防接種率が高い群では、新型コロナによる死亡リスクが低かった。その研究では、ワクチンの接種率が10%増えるごとに新型コロナ死亡率が28%低下していた。(女性セブン 10月1日)

② 同様にブラジル・サンパウロ大学の研究者らが9万人以上の新型コロナ感染者に行った調査でも、インフルエンザの予防接種を受けた人は、受けていない人よりも集中治療室への入院リスクが8%低く、死亡リスクも17%低かった。「最近のギリシャの研究結果では、BCGワクチンを接種した人は新型コロナ感染症の発症率が45%減少しました。またメキシコの研究では、麻疹、風疹、おたふく風邪のMMRワクチンを接種した人は、新型コロナに感染しても軽症ですむ割合が高かった」(医療ガバナンス研究所理事長・上昌広医師)

③ 通常の「かぜ」ウイルスと、今回の新型コロナ・ウイルスは異なるものであり、後者の新型ウイルス用ワクチン自体は未だ開発されていないものの、前者へのワクチンが、後者に対して一定の割合で有効であろう、ということである。他方、両者の重複感染に関して恐い部分は「同時感染した患者はサイトカインストーム(免疫の暴走)によって心臓に損傷を起こしやすく、重症化リスクが高いとされます。」(国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授・一石英一郎医学博士)

 

 

2)新型コロナ・ウイルスの特性―エボラ熱(エボラ出血熱)と比べて

 

新型コロナ・ウイルス感染症は、感染から発症まで時間がかかる(1~14日)こともあり、また無症状、軽・中症状の場合も多く(約80%)、感染者が広くそして遠方にまで移動することもできてしまう。航空機を利用する場合、24時間以内でアジア~アフリカ~欧州~北米・中南米の国々などに移動するケースもある。早めに発症、重症化し、死亡率が高いエボラ熱と異なり、このウイルスは、忍者のように素早く遠くへ感染を広げる「曲者(くせもの)」とも表現できる。

映画でいえば、『アウトブレイク』(監督:ウォルフガング・ペーターゼン、出演:ダスティン・ホフマン、レネ・ロッソ、モーガン・フリーマン、キューバ・グッディング・ジュニアほか。1995年)は、エボラ熱(映画では、モターバ熱)をモデルにしている。モターバ川流域の小村での感染の広がりは、非常に乱暴なやり方で終止符が打たれる。が、同時期にこの地域から米国に愛玩用として密輸入された一匹の野生のサル(モターバに感染している)から、米国の一地域に一気に広がっていく。実在の「アメリカ疾病予防管理センター(The Centers for Disease Control and Prevention:CDC)」および、研究機関「アメリカ陸軍感染症医学研究所(United States Army Medical Research Institute of Infectious Diseases:USAMRIID(ユーサムリッド))」と、その医官、医師、看護師も登場する。モターバ・ウイルス(エボラ・ウイルス)が、発症者の身体、内臓までを溶解し、罹患者の吐しゃ物や出血から、周囲に感染が広がる状況が凄まじい。

この映画では、感染したサルがアフリカ大陸から、北米への感染症の蔓延を導いてしまう。

他方、新型コロナ感染症の広がりは、別の映画『コンテイジョン』で描かれるものに近い。感染、発症し、はじめは軽いかぜのような症状なので、最初の感染者バス・エムホフ(グウィネス・パルトロー演ずる)という企業幹部が、香港から、シカゴへ、また家族の待つミネアポリスへ移動する中で、まったく意識せず、次々にまた多方面に感染を広げていく。ウイルスが、感染者から直接、あるいは触るあらゆるものを介して感染を広げ、幾何級数的に罹患者が増えていく。ある意味、昨年秋・冬からのCOVID-19の広がりを予見した形になっている。ここでも実在のCDCやアメリカ合衆国国土安全保障省(略称: DHS)の医官、職員が出てくる。

 

 

3)新型コロナ・ウイルス感染症への治療薬候補およびワクチン開発について

 

 

 

・新型コロナ・ウイルスと予防ワクチンについて

 

① 「新型」の意味。人間にとって未知のウイルスであるがゆえに、私たちの免疫力が有効ではなく、未だ有効な治療法、予防法が確立していない。

② ウイルスは、核酸(DNAやRNA)とそれを囲む膜をもつが、自己増殖できず、細胞を持たないゆえに生物ではないと定義される。

③ コロナ・ウイルスは、コロナ(王冠)状にスパイクを持ち、そのスパイクで宿主(人間など)の細胞に接続し、細胞内に取り込まれる(感染する)。

現状では人間にはこのウイルスに対する自然免疫はない。したがって、抗原や抗体などを利用して、ワクチンをつくり接種することで、感染や重症化を防ぐことが重要になる。【佐藤良也医学博士。琉球大学名誉教授、もと副学長・医学部長】

現在、WHO(世界保健機構)、各国政府、製薬会社、大学・研究所を中心に、治療薬とワクチン開発が追求されている。WHOでは、「ワクチン・ナショナリズム」(ワクチン開発を自国の利益に繋げる方針)に反対し、ワクチン開発の成果を低所得国の人々ふくめ世界の人々が共同で享受できるようにと、“COVACSファシリティ”を提唱し、欧州、豪州、日本など172カ国が財政支援やワクチンの共助・公助イニシャティブへの参加表明を行っている。

 

AnswersNews 2020年9月25日 Update

 

 

【英国】 製薬大手アストラゼネカとオクスフォード大学が共同開発を行っている。(AZD1222) 9月9日、研究・治験の過程で安全性をめぐる疑義が生じたために一旦中止となった。しかし、英国政府の確認を経て、問題は被験者個人の病歴に関するものと判定され、研究・治験は再開された。北半球では、10月以降、季節性インフルエンザの蔓延も予想されている。

治験は通常、動物実験で有効性があると認められたものについて、【第一段階】人間の治験で、数十人の単位での安全試験、【第二段階】数百人単位での有効性の試験、【第三段階】数千人単位での、安全と有効性に関わる試験と進む。

 

【ロシア】 8月プーチン大統領は、研究・治験上の安全性と有効性の最終確認が出来ていないワクチン「スプートニクV」を認可し、治験の継続とともに投与を開始した。ロシアふくめ世界の医療・感染症専門家は、予防効果が明確ではないワクチンの投与は、安全性の問題の発生および、新型コロナ・ウイルス側に耐性をもたらし、今後開発が完了するワクチンの有効性を減ずる危険性があるという理由で、懸念や反対の意思を表明した。なお、ロシアは、上記の“COVACSファシリティ”に参加せず、まさに「ワクチン・ナショナリズム」の方向に進むことを明らかにしたために、批判を受けている。

【米国】 11月3日の大統領選挙との関連で、トランプ大統領は、ワクチン開発を急ぎ、10-11月選挙前の投与、年内投与、あるいは来年早々の投与をアピールしようとしている。しかし、米国内の各感染症研究所や、医師、感染症研究者は、十全な治験(安全性と有効性)抜きには、ワクチン開発は完了せず、ロシアの事例同様、今後のウイルス対策において危険性が増すだろうという予想において反対している。米国の場合には、「ワクチン・米国ナショナリズム」の傾向のほかに、「トランプ大統領当選ファースト政策」が、ワクチンの「拙速開発」を進めているための危険性が高い。米国も、上記の“COVACSファシリティ”に参加していない。

なお中国は、“COVACSファシリティ”の基本的な考えに賛同しているが、現在のところ、同ファシリティに参加していない。これら三カ国から、資金が供与されないとすると、低所得国および貧困層へのワクチン無償供与は資金不足から実現出来ないこととなる。

ワクチン開発は綺麗な言葉でいえば「世界のため、人類のため」ということになるが、実際には、大国や大国トップ(大統領など)の「成果」として、政治的外交的影響力行使に使われ、また特定製薬大手企業や関連研究機関の巨額の財務・経済的利益にもつながる。メディアや市民団体による監視的役割が決定的に重要になる。
 ・ “COVAXファシリティ”とは: 高・中所得国(約80カ国)から2000億円集め、ワクチン開発を行い、ベトナム、フィリピンなど途上国92カ国にも分配する当初計画。(合計172カ国) 

 

4)西アジア(中東)、東南アジアなど、その他の国際情勢(一部新型コロナ禍がらみ)は、巻の参とする。

 

 

連載アーカイブ

『世界のいまとこれから ~ 新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)』巻の壱

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