2022.04.28

Category:教員

ロシアによるウクライナ軍事侵攻について(その1)

日本映画大学特任教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)元代表

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ロシア侵攻地図(ヤフーニュース。米「戦争研究所」資料)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・マリウポリ製鉄工場地下シェルターの母子(dメニューニュース)

 

 

* 多くのロシア・ウクライナ地域専門家なども予想できなかったという、ロシアによるウクライナ軍事侵攻開始(2022年2月24日)から約2カ月、これもまた多くの外交・軍事専門家などが想定出来なかったレベルでの、ウクライナによる抵抗・反撃が世界を驚かせている。

 

【前文】 いま一番必要なのは、ウクライナにおいて、これ以上人命が失われないようにすることですが、大国の戦争メカニズムが動き出せば、止めるのは容易ではありません。何度かの「停戦協議」も事実上「時間稼ぎ」のようであり、一般市民(非戦闘員)への救援ということで「人道回廊」が開かれましたが、大部分は非協力、妨害、武力攻撃があり、危険地帯からの移動が必要な人々の大部分は、動けないまま、あるいは移動中に殺傷されました。(「人道回廊」の件、4/26、国連事務総長とプーチン会談で多少の進展があったようです。国連と赤十字国際委員会(ICRC)が関わるらしいです。)

 

兵士の多くも平常時には、学生であったり技術者・労働者であったりする一般市民であり、その意味で兵士も、トップの勝手な命令で命を失うべきではありません。高齢者、青年の死傷も辛いことですが、何が起きたかもわからない、こどもたち・乳幼児の死傷はなにより耐え難いと感じます。現地の本当の恐怖、苦しみ、悲しみ、厳しさの万分の一も体感していませんが、最終的に停戦・和平を回復するために、この状況を理解し他地域(アフガニスタン、シリア、ミャンマー、日本国内など)の状況とも考え合わせ、関心を持ち続け、声を上げ続ける以外の道はないように思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・4/26のグテーレス国連事務総長=プーチン大統領会談で「人道回廊」が実現する見込み(TBS)

 

今回のロシア(プーチン大統領)のウクライナ侵攻・戦争には、①旧ソ連崩壊(1991年)以降のロシアをとりまく状況へのロシアの不満、②ウクライナの独立(1991年)後の、EU(ヨーロッパ連合)そしてNATO(北大西洋条約機構)への接近、③2004年の「オレンジ革命」、2013-14年の「ユーロマイダン(広場)革命」、④およびその後2014年、ロシアによるクリミア半島の事実上の占領、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツィク州とルハーンシク州=ロシア西部と国境を接している地域)の親ロシア派地域「独立」承認があった。
筆者は、冷戦時代(1980年代)から国際協力NGOスタッフとして、世界の紛争地において人道支援、難民支援に携わってきた立場から、以下の項目での理解と概説を試みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ロシア戦車を止めるウクライナ市民(NewsWeek)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・世界の反戦デモ(ヤフーニュース)

 

要点)この2カ月の軍事侵攻について

その背景としての、上記4つの要素。
①旧ソ連崩壊(1991年)以後の30年。ロシアとウクライナ、②ウクライナの政治的社会的動向、③ウクライナにおける二つの革命、④2014年のロシアによるウクライナに対する軍事侵攻との関係 (簡易年表、本稿末尾に添付)

* 関連して、ウクライナおよびロシア軍事侵攻への理解のため、参考となる映画と書籍。

 

1)この2カ月の政治、軍事状況、およびその前提に関して

 

(ウクライナという地域名は、キエフ大公国の中心地域として、12世紀位から歴史文書に登場する。1917年成立した「ウクライナ人民共和国」において、初めてウクライナが正式な国号の中で用いられた。しかし、ソ連赤軍との戦いに敗れ、1920年にウクライナ・ソビエト社会主義共和国として、単一独立国ではなくなる。1917年以前も、また1920年以降も、ウクライナの版図(領土―国境)はロシア、ドイツなど周辺国との戦争(二つの世界大戦をふくむ)で、吸収合併されるなど度々変わり、現在の版図にいたるまで、大きく変化してきた。)

 

8年前の2014年に、ロシアは、「ロシア系住民の保護」という名目で、クリミア半島を事実上占領し、ウクライナ東部における親ロシア地域の独立達成ということで、第一段階は進んでいた。ロシア、プーチン大統領は、NATOのソ連解体後の「東進」に脅威を感じ、とくに隣国ウクライナの動向を非常に気にしていた。経済共同体のEUはともかくとして、米国を中心とする軍事的な同盟であるNATOがロシア国境の西(ウクライナ)にまで来ることに恐怖を感じた。

 

そして、今回のプーチンの決断は、昨年2021年8月の、米国がアフガニスタン(親米政権)を見限って、撤退していく姿を見ての決断ともいえると個人的に感じた。米国バイデン大統領は、ロシアのウクライナ攻撃があっても、第三次世界大戦を起こさないために、武力による対決はしないと、言明したことも、この戦争を早めた原動力になったかと考える。確かに、第三次世界大戦は、ほぼ必然的に核戦争になるだろう。

 

2月24日以後、ロシアは、ベラルーシにおいて軍事訓練を行う前段階を経て、①ベラルーシから南下、首都キーウ(キエフ)を、②ロシア西部から、ウクライナ東部ドンバス地方を、③既に抑えているクリミア半島から、ウクライナ南部、への攻撃体制をとった。空爆を行いながら地上軍を、黒海側からは海軍も攻めこむ体制をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・2019/12/10 停戦合意(ゼレンスキーXプーチン。メルケル首相、マクロン大統領が仲介)@パリ CNN

 

 

【今回の、プーチン大統領・ロシア側の誤算】

 

1. プーチンは、NATOの「東方拡大」への懸念をもとに、ウクライナの現体制をロシア攻撃拠点となりうる「ネオ・ナチ」、極右と呼んだ。そして、ウクライナの約10~15倍の総合軍事力(軍事予算、陸海空軍の総力、兵器・装備、軍人・兵士の師団数・兵員数など)をもつロシアが動けば、ウクライナの現体制は短期間で崩壊させられると想定していたようだ。当初の目標は、①ウクライナの非軍事化・中立化、②現政権の交代、③東部ドネツク地方の親ロシア勢力を守る、などであった。

 

ウクライナ全体の占領を目指している訳ではないと言いつつ、ミサイル攻撃や空挺部隊の派遣とともに、戦車、装甲車、軍用トラックの隊列を、ベラルーシ領内から首都キーウめがけて攻め込ませた。想定では、「二日以内」あるいは精々一週間程度で目的を遂げる想定であった。しかし、ウクライナ側の軍、親衛隊、志願民兵などの予想以上の強靭さ、またロシア軍側の一部軍装備や戦術の古さ、また軍事的攻撃を支えるサイバー・情報戦においても遅れと弱さがあったようである。言い換えれば、ウクライナ側には、2014年のロシア軍による東部攻撃および南部(クリミア半島)の占領以降、秘密裡にではあるが、米英軍などの軍事援助・訓練が実質的に入っていてウクライナ軍の戦力の質を高めていた。

 

 

2. 米国とEUを中心に、ロシアへの経済制裁が、思わぬ規模と速さで進行した。同時に、米国を中心にNATO諸国によるウクライナへの兵器・武器支援、サイバー・情報機器支援も急速に進んだ。(他方、中国、インド、アラブ諸国、アフリカ諸国、中南米の、欧米への協力・支援は限られている。国連総会でのロシア非難決議に141カ国が賛成したが、ロシアの人権理事会・理事国資格を停止させる決議案は、93カ国の賛成で採択したものの、中国など24カ国が反対し、58カ国が棄権した。非賛成組は82カ国となり、賛成国の数にほぼ拮抗する。)

 

 

3. ロシアの激しい空爆が、東部(ドネツク)、南部ヘルソン州等を中心に、さらに首都キーウ、西部リビウ州などにも行われている。ウクライナ西部のオデーサもロシア側が掌握すれば、ウクライナは海路での出入り口を完全に失うので、軍事的にも経済的にも封じ込められることとなる。現在ウクライナ側の多くの地域がロシア軍の占領下、あるいは戦闘中であるので正確な死傷者数は分からないが、政府は民間人死者を2万人以上と推定している。兵士の犠牲者は、大統領の発表で、3000人以上。ロシア軍の犠牲は、英国国防省の発表で、1万5千人と推定されている。(4月25日)

 

 

またロシア軍の士気の著しい低下、規律の乱れか、あるいは幹部からの指示があるのか、ウクライナ側兵士、民間人の遺体の放置、電気製品その他商品の強奪窃盗、性暴力、民間人のロシア領への移送、なども多く報告されている。ウクライナ政府と共に、国際刑事裁判所(ICC)も、訪れられる各現場で、集団殺害、戦争犯罪、人道に対する罪にかかわる調査を開始している。

 

 

4月下旬の段階で結論的に言うと、ロシア軍の攻撃の激しさで、ウクライナ側は国土も、軍も、市民国民も大きく傷ついている。しかし、ロシア軍が勝っているという印象もあまりなくて、ロシア軍の損害も非常に大きく、兵士のみならず、将校、将軍にいたるまで異様に多くが死傷している。プーチンは、「対独戦勝利」の記念日(5月9日)に、何らかの「対ウクライナ、勝利宣言」をするだろうが、勝利の実態がなく懲罰を受ける者の数が増える一方の状況で、内部の亀裂も拡大しているようである。

 

 

軍事攻撃前の1月末、プーチン支持の強力な母体の一つであった「全ロシア将校の会」(会長:レオニード・イワショフ退役大将)は、ウクライナへの戦争反対、プーチン辞任を求めていた。また有名な「ロシア兵士の母の会」(会長:ヴァレンチナ・メリニコワ)も、旧ソ連時代から、兵士の命と人権を守る活動を強力に行ってきた。今回、戦争開始から2カ月、戦死者、重傷者、行方不明者、捕虜、逃亡者などが多数出る中で、また戦線の息子からの電話連絡などを受ける中で、「母の会」も政府・軍への批判を強めている。これらの団体の活動、発言次第では、権威主義体制も揺るぐ可能性はある。 (つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・4/14ロシア黒海艦隊旗艦「モスクワ」沈没(読売新聞)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・頭に砲弾で大けがを負ったソフィアさん緊急手術(ANN)4/21配信

 

著者経歴【熊岡路矢】

1980年以来、タイ、カンボジア、ベトナムなど東南アジア、ヨルダン、イラクなど中東、エチオピア、ソマリア、南アフリカなどでの人道支援、難民救援活動、開発協力活動に関わってきた。

 

本原稿との関連では、2006年7月、ロシアでのG8主要国首脳会議(@サンクトペテルブルグ)の時に、合わせてモスクワで行われた世界CSO(市民社会団体)会議に、日本のNGO/CSOの代表者の一人として参加、初日にプーチン大統領の開会スピーチを聞いた。二日目以降、ロシアの人権NGOとの分科会に出席して、政府の弾圧に耐える、ロシアでのNGO活動の大変さを思い知った。また旧ソ連邦解体(1991年)後、90年代の経済的苦境などについて若い人々から聞く機会があった。

 

1999年には、旧ユーゴの紛争の流れで、西スラブと言える、セルビア(ベオグラード)と当時その一州であったコソボ州で、NATO/米軍の空爆その他で破壊された、病院・クリニックへの支援、コソボの破壊された小学校の補修・再建に携わった。

 

ごく一部、関連する映画、本の紹介を行う。(他の作品と解説は次回)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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