2020.11.18

Category:教員

『世界のいまとこれから ~ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)』 巻の伍  ~米国大統領選挙、新型コロナ (附)タイ政治情勢

日本映画大学国際交流センター 特任教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)顧問(もと代表理事)

 

 

 

 

* 前回指摘した通り、北半球の国々は、秋・冬季に入り、低温・低湿度の、新型コロナウイルス感染症にとって、蔓延拡大に有利な条件が整ってきてしまった。その結果、欧州では、スペイン、英国、イタリア、フランスを中心に、感染者が日々3~5万人増え、死者数も欧州全体で4000人以上になってしまっている。相次いでロックダウン(封鎖)を実施している。英国・イングランドでは、11月05日から4週間ロックダウン実施中。フランスは、10月17日から夜間外出禁止令を出し、10月29日からのロックダウンも決めた。映画・演劇など芸術界、鑑賞したい人々、飲食営業などからの反発が広がり、また個人の自由や権利を制約するなという動きも刺激している。そのなかで、若干ユニークなのは、スウェーデンの政策である。2020年の1-2月から、「集団免疫」を目指すということで、高齢者や介護施設利用者・職員を守りつつ、経済活動を抑制しない政策をとってきた。その結果、日々の感染者は1000人を超えているが、死者は日々5~6人のレベルで、欧州の中で一応成功しているという自賛・他賛があるなかで、まだ最終的な評価は保留されている。(以上、朝日デジタル 11月10日)

 

人口100万人あたりの死者数: スペイン 830人 /米国 709人 /英国 708人
/イタリア 664人 /フランス 598人 スウェーデン 596人 /ドイツ132人
/デンマーク 126人 /ノルウェー 52人 /日本 14人
(英オックスフォード大まとめ。11月6日時点)

 

欧州に強烈な第2波(IWJ.公益財団法人ニッポンドットコムより転載、2020年11月1日)

 

 

 

 

イタリアにおけるコロナ経済規制への抗議活動(日経ビジネス 11月13日)

 

 

 

感染者数と死者数で、最悪なのは、11月03日(日)、大統領選挙を終えた米国である。一日あたりの感染者数が15万人を、死亡者も一日1000人(過去の最高は、2200人)を超えるようになってしまった。(ジョン・ホプキンズ大学-ブルームバーグ。11月14日) ここまでの責任者であるトランプ大統領は、特に責任を感じたり、認める素振りもない。来年2021年1月20日から新大統領となるバイデン・ハリス(民主党)政権は、大変なマイナス・重荷および政策上の欠陥のある状態から出発しなければならない。

 

翻って日本の感染者数は、米国、欧州と比べて多くはないが、11月14日の感染者数過去最多を更新し、1704人累計で117971人となった。(全国の累計死者数は1901人)となり、明らかに第3波の上昇を示している。

 

 

日本の第三波。感染者数と重症者数、ともに増える(毎日新聞。11月14日)

 

 

 

 

 

北海道・赤十字旭川病院(朝日新聞。11月18日) 札幌は外出・往来自粛要請(道知事)

 

 

 

 

世界的に北半球各国の次の大きな感染蔓延の波を抑えられるか否かは、①治療薬およびワクチンの開発の課題。②気温・湿度の問題もあるが、同時に政府・自治体の医療保健政策、総合経済・社会政策の問題である。

なお、11月09日、米製薬大手ファイザーと独ビオンテック(BioNTech)は、治験の予備解析の結果、新型コロナウイルスへのワクチン開発に成功したと発表した。まだ最終的な安全性確認が必要であり、その上で米国米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請し許可を得ねばならない。

11月17日、米製薬企業モデルナからも開発ワクチンの発表があった。どちらもメッセンジャーRNA(mRNA)の技術が使われている。安全性の最終確認および、供給と低温保管の課題がある。

 

三密避け屋外テントでインフル予防接種(神奈川・鎌倉。毎日。10月04日)

 

 

 

 

モデルナとファイザー、ワクチンの比較(NHK 11月17日)

 

 

1)米国大統領選挙について:  トランプ大統領、なお敗北を認めず。

 

11月14日米国各メディアは、バイデン・ハリス(民主党)チームは選挙人306人(過半数270人)を獲得し当選と伝えた。トランプ・ペンスチームは、選挙人232人獲得。(BBC)しかしトランプ氏は、現在敗北を認めず「訴訟などを通して最終的に勝つ」という姿勢を示している。

 

ハフィンポスト・ジャパン リー・モラン記事11月07日(撮影:AP写真家 エヴァン・ヴッチ)

 

 

 

次期正副大統領 バイデン・ハリス候補(WDD日本11/09) 右端はジル・バイデン

 

 

 

前回選挙前の10月31日コラムで、“3 投票日前後、そしてその後、どういうことが起こりうるのか。”の項目で書いた通り、新型コロナ感染症蔓延に対する無策などの理由で、トランプ現大統領の敗北が確定した。(ジョージア、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルヴァニア激戦4州において「不正があった」とのトランプ側有権者・弁護団による提訴があったが、勝つ見込みなしということで、取り下げられた。

11月18日現在、トランプ氏本人は負けを認めず、政権移行プロセスへの協力を行わず、抵抗・妨害を続けている。11月16日には、イランへの軍事行動の選択肢について側近に諮った。(ロイター。11月17日) 共和党幹部、家族の一部も、選挙結果を認めるよう説得している模様。本人が「2024年の大統領選挙への出馬の可能性」に言及しているということで、いずれ正式に敗北を認めるだろう。それはそれとして、トランプ大統領が7300万票を獲得した事実は、米国社会の深い分断を示し、次期ハイデン・ハリス政権とその政策実施に重くのしかかるだろう。事前の予想と異なり、上院選で勝てなかったことも、今後の政策運営に影をおとす。

A. 1億人規模となった事前投票の60%以上を占める郵便投票およびその開票について、トランプ陣営は裁判所に対して無効や不正として訴えた。しかし、各州の州当局、州の裁判所は、これら提訴を認めていない。またトランプ政権下の、米国土安全保障省のサイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁(CISA、長官はクリストファー・クレブス氏。トランプ大統領任命)の調査委員会も大統領選で票が失われた形跡は全くないとの調査結果を発表した。調査は「選挙インフラ政府調整評議会実行委員会(GCC)」と「選挙インフラ部門調整評議会(SCC)」が実施し、「票が取り除かれる、失われる、改ざんされる、不正なアクセスを受けるといったことが起きた形跡は全くない」と表明した。なお。クレブス長官は、まもなく大統領によって罷免されるだろうと自ら予測している。

トランプ側の訴えが連邦最高裁にたどりついたとしても、保守派判事が6人いると言われ、そのうち3人はトランプ大統領の任命であるとはいえ、基本、憲法および判決・判断の前例に従うわけで、トランプの言いなりになるわけではない。

 

 

①トランプ大統領『落ち着け、グレタ』写真は2019年12月19日(CNN)/2020年グレタ・トゥーンベリさん『落ち着け、ドナルド。友だちといい映画を見に行ったほうがいい。』(NHK11/06)

 

 

 

②勝利を祝う、ウィスコンシン、バイデン・ハリスへの学生支援者たち(日経 11/09)

 

 

 

B. 通常、大統領選挙および開票後、早ければその翌日にでも、負けた側が勝った側に電話で祝意を伝え、正式の政権移行プロセスが進むはずであるが、今回は、トランプ氏が負けを認めていないので、バイデン・ハリスチームは、移行チームの準備を始めたものの現政権からの安全保障にかかわる情報その他を受け取れていない。2000年ゴア対ブッシュ(子)の選挙では様々な経緯を経て開票後35日で、ゴア副大統領が敗北を認め、政権移行プロセスが進行した。

負けたとは言え、トランプ大統領は7300万票を獲得し、厚い支持層があることを示した。事前に懸念された、トランプ支持派とバイデン支持派による大きな暴力的衝突は、11月17日現在起きてはいないようである。

 

C. 共和党幹部、トランプ・ファミリーの中でも「敗北を認めよう」という動きはある。またトランプ氏が2024年の大統領選挙に出るという話もあるそうである。最終的に、11月末か、12月中にトランプ氏が正式に敗北を認めても、1月19日までは正式な大統領であるので、次期政権が困るような決定をすることは出来る。極端に言えば、現在ある紛争をさらにこじらすとか、政府人事で次々に罷免するなど混乱を拡げることも出来る。現実に、エスパー国防長官は罷免され、それに伴い、幹部が次々に辞職を申し出たりしている。(エスパー長官は、BLMなどのデモへの鎮圧に軍を政治的に利用することに反対したことで、トランプと対立。)

 

トランプ氏は、大統領職を離れると、現在ストップされている様々な訴訟(ビジネス上の訴訟、債務の返済、ハラスメントなど)の件に直面せざるをえないので、敗北を認めないという見方がある。

また、前回の大統領選挙の共和党内予備選以来、トランプ大統領を支え続けた、「メディア王」ルパート・マードック氏(FOXテレビ、ウォールストリート・ジャーナル=WSJ、ニューヨーク・ポストなどの経営トップ)が、トランプ支援から離れたということもトランプにとって大きなショックだったようである。「俺=トランプは、FOXにとっての『黄金の鵞鳥』だったのに、見捨てやがって」ということになってしましった。特に、アリゾナ州でのバイデンの勝利(トランプの敗北)を、他のメディアに先駆けてFOXが報道したことに怒ったと伝えられている

(NYタイムズ「オピニオンー黄金の鵞鳥、さようなら」 モーリン・ダウド 2020、11月14日)

 

 

2)米国大統領選挙の方法について

 

 

 大統領選挙といいながら、直接の選挙ではなく、各州=選挙区ごとに選挙人を選んで、その選挙人が大統領を決めるという方式が非常に分かりにくい。2000年(ゴア対ブッシュ)、2016年(ヒラリー・クリントン対トランプ)の選挙で起きたことであるが、全国での総得票の多い方が負けて、大統領になれなかった。各選挙区=州の選挙人の数が、有権者の数と比例していない場合がある。(いわゆる、「一票の重み」が違う) さらに50州のうち48州で、選挙人「総取り方式」である。極端にいえば、その選挙区でわずかでも上回った候補者が選挙人を総取りする。(選挙人数の例:カリフォルニア州、55名。テキサス州、39人、フロリダ州、29人など)

 

 この選挙の国際的影響と日本への影響に関しては、今回、略。

 

「米国のイラク占領」

 

 

 

ラリー・ダイアモンド教授(日経)

 

 

 

・ すこし古い話であるが、米国人の政治学者たちにこの件で話を聞いたことがある。2007年5-6月、スタンフォード大学フーバー研究所で「民主化セミナー」(主宰:ラリー・ダイアモンド教授)が開催され、カンボジアでも活動していたNational Endowment of Democracy(全米民主主義基金)スタッフの推薦でスピーカーの一人として呼ばれた。主にカンボジアのポル・ポト時代以後の民主化の歴史について説明した。(その場で依頼があり、日本での政権交代の可能性についても、一晩の準備で概説を行った。(第一次安倍政権。同年7月、参院選での政権側敗北、安倍首相の病気による首相退任の前の時期)

 

他の出席者は:(共催者) Michael McFaul CDDRL所長 /スタンフォード大学

CDDRL(「民主主義、開発と法の支配・センター」)

アルハンドロ・トレド(Alejandro Toledo)ペルー大統領(2001-2006)

クルジストフ・スタノウスキー、民主主義教育基金・事務局長(ポーランド)

ブレイテン・ブレイテンバックGoree研究所事務局長(セネガル)

 

①米国の政治学者たちに聞いた、米国大統領選挙の仕組み。

 

国際セミナーでは、本題の講義・討議内容も面白いが、懇親会やランチなどでの雑談も興味深い。2007年は、2008年の米国大統領選挙(バラク・オバマ対ジョン・マケインIII)の前年であったが、ブッシュ政権末期で、大統領候補の予想などは進んでいた。懇親会のおり、米国以外のセミナー参加者から「米国の大統領選挙の仕組みは何故あのように分かりにくいのか」という質問が7~8人ほどいたが、気楽に答えてくれた。

「18世紀後半、“駅馬車、幌馬車時代”以来の古い仕組みで問題点は多いがなかなか修正が難しい。」「2000年のゴア対ブッシュの選挙結果はおかしかった」「二大政党制がいいとは言い切れない。」「米国が、民主主義のチャンピオンとは言えない。真似する必要はないと思う。」などオフの雰囲気の中、自由に様々な意見が飛びだした。

ニューズウィーク(11月08日)では、サム・ポトリッキオ氏が、「お祭り騒ぎの選挙集会や瞬発力がものを言う討論会でリーダーの資質は見抜けない。本当の勝者を選ぶにはスポーツとサバイバル番組の要素が必要である」という提案を行った。さらに、米国で大統領選の勝者を州単位の選挙人獲得数でなく、全国の得票総数で決めようという動きが広がっている。これまでに全米50州のうち15州と首都ワシントンが賛同。(時事。11月17日。) この提案は、これまでに決められた州別の選挙人数が270人になったときに決定されることとなる。

 

 

【連載アーカイブ】

巻の壱

 

巻の弐

 

巻の参

 

巻の四

 

ページトップへ