2022.05.09

Category:教員

ロシアによるウクライナ軍事侵攻について(その2)

日本映画大学特任教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)元代表

 

 

 

 

~人道回廊、ウクライナ東・南部支配、5月9日『対独戦勝記念日』直前~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【前文】 ロシアの攻撃開始から約2カ月半。ウクライナ市民、兵士にとって厳しい状態が続いています。悪いことだらけの状態ですが、5月1日マリウポリ・アゾフスタリ製鉄所の地下に避難していた高齢者、女性、母子など約100名の避難が、国連および赤十字国際委員会(ICRC)の関与と停戦の条件下、実現出来ました。さらに380名(合計約500名)の避難、および最終的に市民全員の避難が出来ました。(ウクライナ政府、国連グテーレス事務総長発表。FNNプライム・オンライン 5月8日) アゾフ連隊など武装勢力は残存。

 

この避難の契機としては、4月26日のグテーレス事務総長とプーチン大統領との会合での約束でした。東部、南部の他の地域での市民の救出実現と、本格的な停戦および停戦の実現を望みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1)(軍事侵攻について)

 

ロシア軍は、短期的にはキーウ(キエフ)攻撃・占領は断念したものの、「対独戦勝記念日」(5月9日)に向けて、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツィク州とルハーンシク州)の全面支配を目指し、さらに南部のムイコラーイウ州、ヘルソン州、オデーサ州に激しい攻撃をしかけて、占領のプロセスにある。これら黒海沿いの地域支配と、ウクライナの隣モルドバ国にロシアが作った支配地域「沿ドニエストル・モルドバ共和国」に繋げようという意図が見えている。これらの地域が事実上ロシアによる制圧地域になると、ウクライナの黒海へのアクセスは失われ、政治的経済的に大きな打撃になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、防衛側のウクライナ軍と一般市民の抵抗は強力で、大きな犠牲を払いつつも、5月8日現在ロシアの意図を完全には実現させていない。侵略するロシア側は圧倒的な軍事的優位をもっていたはずであるが、軍事行動の目的・意図が、大統領-軍/情報機関-軍の将軍・将校クラス-一般兵士の間で共有されていないようで、約2カ月ちぐはぐな動きが続き、出血の多い消耗戦になってしまっている。ウクライナ側の被害はさらに甚大であるが。

 

また、危険な原子力発電所の破壊・占拠において、事前の訓練も十分受けていないロシア兵が、素手で放射性廃棄物などに触り、被爆してしまうなど、自軍兵士の生命・健康も軽視されているようである。(チョルノービリ原発その他の原発で。東京/中日新聞、毎日新聞など)

 

海上では、4月14日ロシア海軍黒海艦隊旗艦「モスクワ」が撃沈され、さらに5月6日、フリゲート艦「アドミラル・マカロフ」が炎上したという噂もある。(後者は確認中)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この侵略戦争に関与させられたロシア人兵士は、ウクライナ人に対して加害者であると言えるが、見方によっては「プーチンによる戦争」の被害者という側面もある。既に15000人以上が戦死し(英国国防省発表)遺体となってロシア各地の故郷に戻った。英タイムズ紙によれば、ロシア南部の北カフカースのダゲスタン共和国、東部シベリアのブリヤート共和国などだけで200人以上が戦死した。ロシア独立系通信社「メディアゾナ」は「モスクワとサンクトペテルブルク地域の戦死者はいなかった」と報じた。ワシントン・ポストは「ダゲスタン・ブリヤート共和国は貧しい地域」と伝えた。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブル(約8万円)だ。モスクワの平均給与は11万ルーブルである。

 

ブチャにおける殺人、略奪などの戦争犯罪に関して調査・手配されている、「第64分離車両化狙撃手旅団」(プーチンが「親衛」称号を授けた)もモスクワの東6000キロ以上離れた極東ハバロフスクの小さな村に基地を置いている。

 

 

2)ロシアは、5月9日『対独戦勝記念日』をどのように「祝う」のか。

 

 

旧ソ連および、1991年以来のロシアにおいて、①『対独戦勝(1945年5月9日)記念日』と、②ロシア革命記念日(11月7日)が二つの重要祝日であった。プーチンは、2005年に②の革命記念日を外し、代わりに11月4日『民族統一の日』(17世紀ポーランドからのモスクワ・ロシア解放記念日)を決めた。(ロシア人にも十分には浸透していないようである。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年の最重要祝日『対独戦勝記念日』に、ロシアはウクライナでの「特別軍事作戦」(実質的に戦争)に関して、何を発表し主張するのか。

 

① 2月の作戦開始時に想定していた、「ウクライナのファシストを倒しての全面勝利宣言」というシナリオは、現実とかけ離れていてなくなった。

 

②「解放した」ウクライナ東部での戦勝記念行進・大集会的な企画もなくなった。

 

③「東部二州の完全掌握」を戦果として発表し、さらに「戦争」(と非常事態宣言)を宣言し、軍や市民の大量動員を命じる可能性がある。(英国、ウォーレス国防相)

 

* 他方、東部ドンバス地域二州のうち、特にドネツク州では激戦が続き、5月9日の記念日までの東部二州の完全掌握は難しいとみられる。ロシア軍の命令系統は崩れ「成果」も見えないなかで、プーチン大統領が怒り、軍幹部、連邦保安局(FSB)幹部を叱責したり降格させたり、FSB第5局(ウクライナ担当)職員大量解雇、あるいは局長クラスの逮捕を命じたなどの事態が進行しているようで、亀裂と混乱が深まっているようである。「勝利」は遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシア国内では、今回の開戦前後の時期ふくめ、今年1~3月のロシア国民の国外への移動は、388万人に達した。(連邦保安局統計。ロシア独立系メディア発表) 昨年の5倍である。観光や出張も含んだ数字であるが、特に若い世代が、「プーチン政権に賛同しない」「ビジネスが出来ない」「生活が苦しい」という理由で海外に出ている。(朝日新聞)

 

国内に留まる人々の中でも、特に若い人々の不満は、海外脱出組とほぼ同様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに対独戦勝記念日に、今回の戦争で戦死した兵士の遺族・友人などが、遺影や喪章を掲げて行進するという噂もある。またもともと現政権の支持母体であったはずの「ロシア現役将校協会」や「兵士の母の会」も、政権と今回の対ウクライナ戦争に関して批判を強めている。5月9日が、更なる攻撃・圧政の開始、そしてあらためて反戦運動の契機になりうる。

 

「プーチンの戦争」は、ウクライナの人々の抵抗、関心ある世界の諸国・人々の運動、そしてロシアの組織・人々の反対運動が、これを止められる。

 

【連載アーカイブ】

 

ロシアによるウクライナ軍事侵攻について(その1)

 

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