2017|30min|ドラマ
父の突然の死から一年。残された家族は力を合わせて暮らしていた。女手一つで母・知美は懸命に働き、妹の菜摘は家事を手伝いながら幼い弟・睦巳の面倒をみる。けれど、中学3年生の長男・大地だけは、そんな日々を受け入れられずにいた。うまくいかない受験勉強や部活。不安や苛立ちを、父の不在のせいにして…。夏のある日、祖母の家に遊びに行った菜摘と睦巳が行方不明になった。大地は、父との思い出の場所だった「沢」へと向かう。
最愛の父の死後、残された家族は力を合わせて暮らしていた。女手一つで子供たちを育てるため、母・知美は懸命に働き、妹の菜摘は家事に励みながら幼い弟・睦巳の面倒をみる。けれど、中学3年生の長男・大地だけは、そんな日々に上手く順応できないでいた。受験勉強や部活、そして父がいなくなった後の家族のかたち。素直になれない苛立ちを心のどこかで、父の不在のせいにして—。
「家族の繋がりについて描きたい」。監督・石田晴花の強い想いからこの作品は始まった。監督自身の実体験をもとにした脚本には、父を亡くしてから、より強固なものとなった彼女の家族観が反映されている。父との思い出の象徴として描かれる「沢」は深々とした緑の間を流れ、登るにつれて険しさを増していく。一心不乱に沢を駆けのぼる主人公・大地を捉えたダイナミックな映像、まるで三兄妹の溢れ出す感情のように響く滝の轟音、スクリーンに映し出される大自然の美しさと恐ろしさが、物語により一層の深みをあたえる。
揺れる想いを抱えながらも家族を守りたいという正義感を持った主人公を、役柄と同年齢の大原由暉が、感情の静と動を使い分けながら演じ切った。前を向こうとしない兄に対していらだつ妹に、芯の強さを感じさせる紺野萌花、幼いながらも家族をしっかり見つめている無邪気な末っ子に込江大牙、父不在の家庭で育ち盛りの子供たちを見守る母の苦労を、朝岡実嶺があたたかい眼差しをもって演じている。本作は、父と息子の絆を描いたひと夏の物語であり、家族への愛の物語だ。
大原由暉
紺野萌花
込江大牙
朝岡実嶺
古山憲太郎
木村八重子
真砂豪
上村侑気夫
江崎政博
芝崎昇
桑原弘行
田中登志哉
本田豊
瑠美子
中島和夫
高松啓子
永田さゆき
森田悠介
林飛顕誠
潘志揚
海上祐史
芳賀虹介
石田恭一
石田恵美子
村上文男
若林良昭
遠藤百合子
田中小夜子
三橋ヨシ
服部和枝
監督・脚本:石田晴花
プロデューサー:大漉千夏
アシスタントプロデューサー:山本拓哉
撮影技師:三野進紀
照明技師:平川晃太朗
録音技師:宮崎花菜
編集技師:山之内真美
スクリプター:渡邉あゆみ
助監督:大漉千夏、黄宇聪、曾傳然
制作:長谷部千尋、山崎康介
撮影助手:杉村千妃路、阿部真也、石原芽紅
照明助手:山上俊成、永井了晟
録音助手:武中志門、山田日向子、早川真由、山下拓馬、吉岡雄輝
編集助手:渡邉あゆみ、山本拓哉、長谷部千尋、山崎康介
演出応援:寺田悠真、吉尾祐紀、梅下洋武
車両:清水健司
音楽:永井秀和
キャスティング協力:NEWSエンターテインメント、スペースクラフト、ヒラタオフィス、グッドラックカンパニー、Breath、俳優倶楽部サイアン、ネオ・エージェンシー、アルファセレクション、劇団ひまわり、セントラル、マルパソ事務所、ドリーヴス
ロケ地協力:鵠沼高等学校、春秋苑、常念時栗平会館、レストランタカノ、雑貨屋オープンセサミ、東葉高速鉄道株式会社、村上様宅、松寿苑
制作協力:神奈川県立 山岳スポーツセンター、丹沢山小屋組合
小道具協力:高津装飾美術株式会社
車両協力:株式会社トヨタリース神奈川新百合ヶ丘店、芦澤浩明
現像:イマジカ
グレーディングアドバイザー:倉森 武、山口 登
協賛:コダック
卒業制作のシナリオを書くにあたり、私の生まれ故郷である神奈川県秦野市の大自然を舞台にしたいと考えていました。丹沢山地から流れる水はとても綺麗で、全国名水第一位になるほどです。上流の川には高い水質レベルの中でしか生きられない魚がたくさんいて、映画で描いた物語のように、生前の父は幼い私たち三姉妹を、魚とりや釣りによく連れて行ってくれました。多感な中学生のときも川遊びに出かけたりしていたほどに、私にとって父と過ごす時間は楽しいものでした。
それならばタイトルにある「沢のぼり」はとても慣れ親しんでいたことだったのですね、とよく言われます。けれど「沢のぼり」をしたのは小学生のとき、父と妹2人とのぼった一度きりです。
一番最初の滝に到着するとそこからは、父と当時小学4年生だった私の二人でさらに3つ上の滝まで行きました。軽装で恐怖もありましたが、背後で支えてくれた父に「諦めるな」と励まされ、夢中でのぼったことを今でも憶えています。
映画のクライマックスの舞台となったのは、その一番最初の滝です。その後は、父の持病が悪化したため行きたくても行くことができなかった。そんな思い出の場所でした。
映画の主人公・大地はどのようにして沢をのぼっていくのか。脚本にするときから私と大地を切り離す作業は難しくうまく撮影できるか不安でした。けれど、主演の大原くんが大地と真剣に向き合い、実年齢らしく体当たりしてくれたことで私一人では描けなかった大地を表現することができたと思います。
私にとって大切な地元でこうして撮影したものが、作品という形でしっかりと残ったことはとても嬉しいです。そして、もっと多くの皆さんに大地と家族の歩みを観ていただきたいです。