5月11日、活動弁士の澤登翠さんが「写真論」(担当:髙橋世織名誉教授)の特別講師として登壇し、学生のために“活弁”を実演していただきました。
活動弁士とは、無声(サイレント)映画の上映に合わせて登場人物の台詞の発声や情景の説明などを行う人です。日本ではかつて活弁が映画の主導権を持ち、弁士そのものが人気を博すなどして、世界に類を見ない“活弁文化”を築いてきました。
当初は“活動写真”や“シャシン”と言われていた映画。この特別講義では弁士を通して日本映画史の根源に迫り、サイレント映画の享受はライブ感覚であったことを学生たちが知る貴重な機会となりました。
*「写真論」……写真術発明から映画誕生への移行準備期間である19世紀後半の社会と歴史を学ぶ授業。そこからメディア的想像力を身につけ、新しい映画・映像表現を模索する。
東京都出身。法政大学文学部哲学科卒業。故松田春翠門下。弁士の第一人者として国内をはじめフランス、アメリカ他の海外公演を通じて、“弁士”の存在をアピールし高い評価を得ている。「伝統話芸・活弁」の継承者として“活弁”を現代のエンターテインメントとして甦らせ文化庁映画賞他数々の賞を受賞。多彩な語り口で現代劇・時代劇・洋画と様々なジャンルの無声映画の活弁を務めている。 2015年「文藝春秋」に掲載された「日本を代表する女性120人」にも選出されている。
〈株式会社 マツダ映画社〉
https://www.matsudafilm.com/matsuda/b_pages/b_j_1j.html
授業の様子
今回の講義で澤登さんに実演していただいた作品は、1931年に公開された小津安二郎監督の映画『東京の合唱(とうきょうのコーラス)』。上映前、髙橋先生が学生たちに「この体験は皆さんの宝物になると信じて疑わない」と紹介した通り、まさに驚きと感動に満ちあふれたライブの時間となりました。
上映後は髙橋先生との対談形式で活弁の奥深さに触れ、あわせて小津映画の特徴なども解説されました。
澤登さんは映画が演劇化することの魅力に惹かれこの世界に入られたといい、弁士はサイレント映画の字幕と字幕の間を台本で作ること、先人たちが残した本と録音を聞いて勉強すること、そして過去と現在を行き来しながら映画を解釈していくことなど、仕事の要点が述べられました。
練りに練られた台本の中身に大きな興味を示す学生の姿も。日本で脈々と受け継がれる「語りの文化」が、映画を学ぶ現代の学生の心をしかと掴んだ様子がうかがえ、充実の講義を終えました。
“声の仕事”に注目が集まる昨今。若い学生たちこそ、活弁に魅了されたのかもしれません。日本映画大学ではこのような特色ある授業も行っています。