熊岡路矢名誉教授の授業「映画で学ぶ歴史と社会2〈国際情勢〉*」に12月15日、国際協力NGO日本国際ボランティアセンター(JVC)広報の並木麻衣さんがゲスト講師として登壇し、「パレスチナ・ガザ支援の現場から」と題する特別講義を行っていただきました。
*教養科目の同授業では、紛争、貧困、人権、環境などの地球規模課題や、現代の国際政治の歪みから生ずる紛争および難民問題、そして国連、政府、市民、NGOの役割について映画を活用しながら考えていきます。
特別授業
東京都出身、福岡・大阪・宮城・千葉育ち(千葉県立東葛飾高校卒)。
イラク戦争のニュースを見て「紛争下でもたくましく生きる人々の素顔を探しに行きたい」と思い、大学でアラビア語と平和構築を専攻。 "紛争地"パレスチナで暮らしてみたくなり、パレスチナ・イスラエルへ留学。 現地に友人が増え、紛争の両側で生きる人々が抱える問題に直に触れ「日本からできることは何だろう」と悩みを深めて帰国した。
卒業後はITベンチャー、経理、大学院で働き、スーダン障がい者支援NGOを経て、2013年からパレスチナ事業担当、2019年から広報/FRグループマネージャー、2023年2月から広報担当に。
現地に生きる人々の体温を伝えられるNGOでありたい、と願いながら日々活動中。
〈JVC公式サイト〉 スタッフインタビュー
https://www.ngo-jvc.net/activity/report/interview_namiki.html
講義に先立ち、学生たちは映画『ガザ 素顔の日常』(2019年製作/ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル監督)を鑑賞。本作は、ガザの中のジャーナリストが撮影した映像をもとに、「天井のない監獄」と呼ばれる同地区の暮らしを捉えたドキュメンタリー映画です。
映画『ガザ 素顔の日常』予告編
講義の概要
映画上映に続く講義では最初に、支援に関するよくある質問に答える形で、パレスチナとイスラエルが「両論併記してよいような対等の立場ではない」ことを学生たちとの間で共有します。
並木さんは“平等”と“公平”の違いを挙げ、「すべての人たちが同じ結果を得られるようにする」ことを国際協力の目標に掲げ、パレスチナ支援に特化する背景を説明。10km×40km、名古屋市ほどの面積のガザで生きる人口222万人の顔を想像するように、現在の問題と支援のあり方を丁寧に見渡していきました。
2007年のイスラエルによるガザ封鎖以降、失業率も貧困率も高まっていく中、同地区では食糧不足が恒常的な問題となります。特に子どもの栄養失調は深刻で、当初JVCでは栄養強化ビスケットや牛乳を配布するなどの食糧支援を行ってきましたが、今はやり方を変えたと並木さんは述べます。
現地の女性ボランティアに、子どもの健康診断、保険教育や調理実習といったOJTを実施するようになったのです。それらを学んだ女性たちは今度はリーダーとなって、町の人々から頼りにされていくとのこと。
学生たちはこのような支援の方法の変化を見聞きすることで、NGO活動の本質について理解を深めていきました。
一方で、現地の人々から寄せられる声を通して(参照:後段記事)、そもそも「支援の前に戦争を起こさないこと」こそが国際社会の本来的な役割であり、国際協力NGOはそこを目指し活動し続けると、並木さんは説きます。
この講義を受け、学生たちから次々と質問が挙げられ、時間を延長するほどに。並木さんは回答とあわせて質問者の名前をアラビア語で書いて下さり、パレスチナが抱える諸問題を身近に考えるきっかけを与えてくれました。
また『進撃の巨人』がガザで共感を呼んでいるというエピソードからは、学生たちは映画を学ぶことの広さと意義を実感したようで、これからの学修に対して気持ちを新たにする様子がうかがえました。
並木さんに関する記事
【朝日新聞】
10.17付 朝刊
「ママ、ここから出して!」 日本の友人に託されたガザからの叫び
【東京新聞】
10.19付 朝刊
娘は電話で「ママ、ここから出して!」と泣いた ガザから託されたメッセージ 日本でも即時停戦求める声
10.31付 朝刊
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