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こるはの独唱

こるはの独唱

ドキュメンタリー|52min|DCP

ストーリー

古びたレコードに耳を傾けるひとりの女性。彼女は、その存在さえほとんど知らされていなかった伯父・村野弘二の調査を行う。音楽学生だった伯父は学徒出陣で亡くなっており、遺品はほとんど残されていない。彼女はやがて没地フィリピンに向かう。一方、二人の音楽学生が村野の遺したオペラ《白狐》の演奏に取り組んでいく。

解説

2015年の夏、「戦後70年」が大々的に報道されるなか、明治を代表する思想家・岡倉天心(1863-1913)の唯一の戯曲『白狐』を作曲しながら、学徒出陣で亡くなった音楽学生・村野弘二の記事が毎日新聞の一面に掲載された。村野は出征前、作曲家の團伊玖磨(1924-2001)や大中恩(1924-)らとともに東京音楽学校(現・東京芸大)で作曲を学び、オペラ《白狐》を作曲する。傑作と周囲から認められつつも、未完のまま学徒出陣でフィリピンに出征し、1945年8月21日、同地で拳銃自決、22歳で人生を閉じた。

記事掲載当時21歳だった監督は、自身とほぼ同年齢でオペラという大作に挑戦し、戦争によって挫折を強いられた村野に興味を惹かれ、本作を企画。芸術に没頭する学生としての村野に対する共感と、70年という時代の空白による彼への距離感が、この映画の根底に流れている。

本作は、村野弘二の姪である中林敦子が、村野の足跡を辿っていくパートと、東京芸大の音楽学生が《白狐》の演奏を試みるパートのふたつが対比的に描かれる。中林が辿っていく場所には、70年前の痕跡はほとんど見られず、残された跡地も空虚な雰囲気だけが漂う。陰鬱な現代と、奏でられる音楽が交錯し、次なる戦争が語られつつある日本の希望と絶望を描く。

キャスト

中林敦子

藤川大晃

柴垣健一

末次琴音

村野 琇子

橋本 久美子

木村 久美子

Mimiton Naayao

スタッフ

企画・編集:吉岡雅樹

撮影:林賢二

録音・制作:吉田一貴

監督:吉岡雅樹

協力:倉津幸代、中林祥樹、中尾勝喜、江成常夫、江成和子、長瀬アガリン、牧野宏美

Billy Tenepre、Cris Tenepre、Djay Tenepre、Alexa Tenepre、Wenelyn Gonzaga Gulma、Lowena Ozeki Gonzaga、Mateo Gonzaga Gulma

Manny Palma、Jupiter P. Lapugan、Estela Adolfo、Jimmy Lim、Melchor M. Blmmang、Agripina Naaya

東京藝術大学総務課、東京藝術大学附属図書館、東京藝術大学大学美術館、小平市平櫛田中彫刻美術館、入間市国際交流協会、入間市役所、入間市民のみなさま、KAFIN、アギナルド・セントラル・スクール、イントラムロス事務局、ブンヒヤンのみなさま、相模女子大学、兵庫県立神戸高等学校、信太の森神社、戦争と平和の資料館ピースあいち、フォーラム色川

使用楽曲:
「こるはの獨唱」原作/岡倉天心、作曲/村野弘二、獨唱/戸田敏子、伴奏/高橋美代子

「君の爲め」御歌/護良親王、謹曲/村野弘二、謹唱/村野弘二、伴奏/高橋美代子

「愛国行進曲」作詞/森川幸雄、作曲/瀬戸口藤吉、歌/Mimiton Naayao

使用資料:手記『弘二の死を知って』 村野貞朗、月刊沖縄社『フィリピンの戦い 太平洋戦争写真史、朝雲新聞社『戦史蔵書 捷号陸軍作戦 比島レイテ・ルソン決戦』防衛庁防衛研修所戦史室・編、音楽之友社『東京藝術大学百年史 音楽学部篇 第二巻』東京藝術大学百年史編集委員会 芸術研究振興財団・編

監督コメント

村野弘二の存在を知った時、私は大学の実習映画を編集中で、21歳だった。村野が戦地フィリピンで自決したのは、当時の学生らしからぬオペラ作曲を断念された学徒出陣後の1945年、22歳の時だった。

私は、背伸びした学生としての村野に共感すると同時に、あっさりと共感してしまうには怖気づいてしまうほどの距離感をおぼえた。この距離感とはなんであろうか、たんなる時代の違いによるのであろうか。

ある過去についての考察に対して、「記憶」や「痕跡」がよくキーワードに挙げられるが、この映画における本質はそれらに対する距離――記憶を描くことは困難であり、痕跡を見つけても近づくことができない――である。

過去との距離のさきにあるのは現在である。「戦争」というイメージに氾濫した日本において、その距離はおおきくなる一方のように感じられるが、この状況を突破しない限り悪夢はひどくなる。突破したところでより良い生活が待っているとも信じられないが、少しでも希望を見出すために、過去/現在を認識、あるいは自覚しなければならない。

そもそも突破するとはどういうことか? その答えがわからないがゆえに、目の前の世界、人々、生に向き合うために、この映画をつくった。

監督:吉岡雅樹

予告編

こるはの独唱