2020.10.31

Category:教員

『世界のいまとこれから ~ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)』巻の四 ~米国大統領選挙、新型コロナ (附)タイ政治情勢~

日本映画大学国際交流センター 特任教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)顧問(もと代表理事)

 

 

 

 

REUTERS GRAPHICSより。最新の情報はこちら(https://graphics.reuters.com/CHINA-HEALTH-MAP-LJA/0100B5FZ3S1/index.html)をご確認ください。

 

 

 

 

 

 

 

 1) 新型コロナウイルス感染症の現況

 

 世界の人々と各国の大きな期待と圧力の下、治療薬、ワクチンの開発が進むが、確定的に安全性が確認されたものは少ない。ロシアなどでは早急に認可を出し生産を急がせている。

 

 現在、世界の感染者総数は4500万人を超え、死者は118万人を超えた。①欧州は、フランス、スペイン、英国、イタリアを筆頭に、強烈な第二波に襲われ、各国で3万人以上の死者を出した。防御の堅かったドイツの感染者、死者も増えてきている。これらの国では、地域別ふくめ都市封鎖が再開されている。欧州、下記の米国を除くと、前期のように、インド、ブラジル、ロシアの感染状況が悪化している。

 

独メルケル首相、仏マクロン大統領、部分的「ロックダウン(都市封鎖)」決める(CNN10月29日)

 

 

 

 

ロックダウン直前のパリ(TBS 10月30日)

 

 

 

 

 

 

 A. 最悪は、大統領選挙(投票日=11月03日)戦さなかの米国である。トランプ大統領/同政権の無策から、本日現在で感染者900万人、死者22万人を超える。

 

 4月上旬に第一波の山があり、7月下旬に第二の山があったが、いま(第三波)はそれらを超える山がかなりの速度で始まっている。トランプ政権では、「集団免疫」を目指すと公言もしていないが、「制御しない」という方針の様である。「制御できない」というべきか。

メドウズ米大統領首席補佐官はペンス副大統領側近の少なくとも3人の新型コロナウイルス感染が判明したことに関連し、政権の新型コロナ対応を正当化した。さらに米国はコロナの感染拡大を「制御」するつもりはないと言明した。” 

1984年からアメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長を務めるアンソニー・ファウチ氏は、政府レベルでの政策変更の必要性を強く指摘し「新型コロナ感染症増大の影響に関して、2022年まで正常に戻らない」可能性について述べた。(CNN 10月29日)

 

米国のコロナ感染統計(日経10/31)

 

 

 

 

 

 

ファウチ感染症研究所長「2022年まで正常に戻らない」(CNN 10/29)

 

 

 

 

B. 「米国は第三波、欧州は第二波」 無論、恐るべきは、新型コロナウイルスだけでなく、疾病、感染症の類だけでも季節性インフルエンザなど多数ある。

 

C.日本をふくむ東アジア、および東南アジア(以上、概ね北半球にあり、現在秋・冬に向かう)、豪州、ニュージーランド(以上二カ国は、南半球。現在夏に向かう)は、いまのところ、米国、欧州の感染症拡大の一桁、二桁低いレベルを保っている。しかし、安心は出来ない。

 

他方、全国的あるいは地域的に都市封鎖を行う欧州だけでなく、世界的に、新型コロナウイルス感染症対策で、経済活動にブレーキがかかっている状態では、しごとや収入、居住の面で苦しむ人々が増えている。しごとは継続していても、医療従事者ふくめ、エッセンシャル・ワーカー(輸送、運輸、商業、公務、清掃など現場で働く社会の基礎・基盤を実際に支える人々)は、日々感染のリスクを負い不安な気持ちでしごとを続けている。

 

2)米国大統領選挙

 

【大統領選挙と同時に、上院の35議席と下院435議席の選挙も行われる。】

 

1 米国内での、10月31日までの情報と分析では、バイデン・ハリス候補チーム(民主党)の有利が伝えられている。多くの要因はあるが、やはり大きかったのは、2020年、国レベルでのコロナ無策、トランプ大統領本人の感染で、「岩盤支持層」(政治的・キリスト教保守派および、外国・移民に仕事を奪われたと感ずる労働者など)においても支持者が減少したことが大きい。さらに、これまでのトランプ政権の4年で、米国内での分断が広がったと不安に感ずる人々が多くなったことも影響している。

しかしまた現在(10/31)でも、トランプ勝利の可能性は論じられている。バイデン候補への批判としては、バイデン候補の息子、ハンター氏のウクライナ、中国における疑惑も、バイデン本人巻き込みながら取沙汰されてきた。一応確定的な証拠はないということになっている。また、米国内では、バイデンやヒラリー・クリントンのように長年、ワシントンで議員などになりながら労働者や底辺の人々への助力をしなかった政治家を「インサイダー」と呼んで嫌う傾向もある。

 

2020年トランプ・チーム VS バイデン・チーム

 

 

 

 

 

 * 政治評論家、政治分野の学者・研究者、メディア、情報・分析企業、ブック・メーカー(賭け屋)など、多くは非常に慎重で、「トランプ勝利」の可能性もあるかも知れないというような言い方をつづけている。何故か。2016年の大統領選挙、ヒラリー・クリントン対トランプの戦いで、トランプ候補=政治素人、「クリントン有利」と断じて失敗し恥をかいた評論家、専門家、メディアン、企業が非常に多かったためである。(また、2016年BREXIT=英国のEU離脱に関する予想のはずれ、2000年ゴア対ブッシュの大統領選挙でも「ブッシュ逆転」などの件も尾を引いいている。)

 

確かに2016年大統領選挙において、獲得票数(・割合)においてクリントン候補が優った。

 

トランプ候補: 62,979,636 (46%) クリントン候補: 65,844,610 (48%)

 

米国大統領選挙独特の、各州=選挙区ごとの選挙人獲得方式(総取り方式が多い)において、総数538人の選挙人のうち、トランプ候補が306人を獲得して、クリントン候補(232人)に勝った。「駅馬車」時代から歴史があるので変更しにくいようであるが、外国人に真に分かりにくい選挙方式で、米国人でも困惑している人は多い。

 

・ 連邦最高裁判事。9月逝去したギンズバーグ氏に代わり、エイミー・コーニー・バレット新判事が10月26日、宣誓を行った。

 

故ギンズバーグ判事(ハフィントン09/24)

 

 

 

 

 

宣誓するバレット判事(テレビ朝日201026)

 

 

 

 

 この選挙の国際的影響: トランプ政権が行った米国の①2015年の「パリ協定」(気候変動への国際的な取り組みからの離脱)、②イラン核合意からの離脱、③WHO(世界保健機構)からの脱退、④UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への資金凍結や、その他トランプ政権による貿易政策、移民・難民政策などは、世界に大きな影響を与えている。これがどう変わるのか変わらないのか、米国外から見ても、大きな岐路となり関心が寄せられている。

 

 

米国トランプ、パリ環境協定からの離脱宣言BBC (2017/06/02)

 

 

 

 

イラン核合意の構造(毎日新聞2017/10/14 現在の英国首相はジョンソン。)

 

 

 

 

 

日本への影響: 米中対立の基本構図は、トランプ勝利でもバイデン勝利でも、大きくは変わらない。政治と外交、安全保障(軍事)において米国を重視し、経済・貿易においては中国と良い関係を保つのが、これまでの日本と日本政府の基本政策であったが、さらに対立が深まる場合には、このバランスを保つことが出来なくなる可能性もある。

 

米中対立と日本。そしてインド、豪州の構図(毎日新聞2020年10月27日)

 

 

 

 

 

『米中対立のはざまで沈む日本の国難』(富阪聡)

 

 

 

 

 

 

 

3 投票日前後、そしてその後、どういうことが起こりうるのか。

 

A.投票日およびその前: 期日前投票は、10月30日で8500万人超。うち5500万人が郵便投票である。期日前投票は、最終的に、1億人に迫る可能性がある。トランプ候補は、自ら期日前投票(フロリダ州パームビーチ。図書館が期日前投票所)を行っているので、公的機関(期日前投票所)での期日前投票に関して批判はしない。しかし、郵便投票に関しては8月下旬から、不正が行われうるという批判を続けてきている。たしかに各地域での郵便投票の扱いが異なり、開票に時間がかかる可能性がある。開票が遅れるだけでなく、トランプ陣営、共和党が「不正」を訴え、郵便投票の無効や「やり直し」などを訴える可能性はある。

 

事前投票(ラスベガス。日テレニュース20/10/18)

 

 

 

 

郵便箱DropBox(朝日新聞 20/10/28)

 

 

 

 

また、トランプ候補が「投票所や郵便箱の監視を強めろ」と支持層に訴えている。トランプ支持者には、「プラウド・ボーイズ」、「パトリオット・プレイヤー」、「ブーガルー・ボア」、「ウルヴァリン・ウォッチメン」(=「ウルヴァリン」は、ミシガン州知事を誘拐する犯罪を企てた容疑で逮捕された。バージニア州知事誘拐も計画した、と言われている。共に民主党知事)など全国に無数の武装し行動するグループがいる。一言でまとめれば、「ミリシア」(=政治的主張のために武装する集団)と言える。多くは、民主党や左派、リベラルを敵視するグループであるが、同時に政府機関や警察を敵視するグループもある。また米国の場合、銃規制が弱いので、軍隊並みの武器を所有している場合が多い。最近は、民主党系のデモ・集会も、これらかの攻撃可能性を心配して、一部地域では、数人が武装して警護するようになってきている。

共和党側は、「アンティファ(=アンティ・ファシスト)」などを戦闘的左翼として、警戒し批判を強めている。投票日前後、揉め事が起き、物理的衝突となる可能性がある。

 

「プラウド・ボーイズ」(朝日2020/10/01)

 

 

 

 

 

初めての銃購入者増える(CNN 20/10/27)

 

 

 

 

 

B. 従来で言えば多くの場合、大統領選挙の投票/開票日以降、大勢が決まった段階で、負けた側が勝った側に電話をかけ、政権継続なり政権移譲が進むのだが、今回は、得票においてある程度の差があっても、開票結果の確定がなかなか出ないだろう。選挙結果と過程に文句をつけ、こじらせる方法はたくさんある。数日、数週間で勝者が決まらない、もしくは勝者を認めない状態が続く可能性はある。特に、トランプ大統領が負けた場合、裁判に訴えることをふくめ、様々な方法で粘るだろう。負けても居座る可能性も否定できない。米国上院は、トランプ指名のエイミー・コーニー・バレット氏の連邦最高裁判事就任を承認したので、選挙結果が連邦最高裁に委ねられれば、トランプ・共和党に有利な状況が生まれるかも知れない。

選挙結果において大差がつくなどして、11月中(あるいは年内)に結果が確定すれば早い方ではないか。

 

C. 最終的に仮にトランプ大統領が自らの負けを認めた場合でも、2021年1月19日までは大統領であり、トランプ政権なのでやりたいようにする、政権移譲相手の民主党政権がしごとをしにくくする方策をとる可能性もある。

 

* 2008年の大統領選挙(バラク・オバマ対ジョン・マケイン)の前年に、比較政治論―政治学者ラリー・ダイアモンド教授(スタンフォード大学/フーバー研究所)と米国若手研究者に、米国の大統領選挙および「イラク戦争」(”Squandered Victory”)について話を聞く機会があったので、次回、現在のタイの政治状況とともに書いてみる。

 

 

「米国のイラク占領」

 

 

 

 

 

ラリー・ダイアモンド教授(日経)

 

 

 

 

 

タイ学生政治運動(9/20日経)

 

 

 

 

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