急速な経済の発展とともに中国の都市と農村の格差は拡大を続けている。1980年代初頭から現在まで、全国各地の農村に住む人々は大都市へと移住し続けている。四川農村出身の方平もそのひとり、彼と弟は90年代から出稼ぎに北京へ、ギターを制作する仕事に出会った。この二十年の歳月で出会った数々の友人に支えられ、一級の手作りギター職人として認められた。故郷･四川の変わらない営みと対比しながら、ギターづくりの技巧の数々が紹介される。

北京郊外の村に、兄･方平と弟･方輝の手作りギター工房がある。ここで詳細に語られるギターづくりの技巧。ふたりが手作りした秀麗なギターが美しい音色を奏でる。彼の顧客はギターづくりの仲間であり、大切な友人でもあるのだ。方平の故郷･四川では、両親の素朴な生活が続いている。ここから始まった方平の物語。北京での肉体労働に始まり、ギターづくりとの出会いがその人生を大きく動かす。これはかれらがギターと共に成⻑する物語である。

方平と出会った時、彼は工房でギターを作っていた。彼は作りながら雑談をしてくれた。私は直ぐに彼と彼の工房に興味が沸いた。近頃、その数が増えたとはいえ、手作りギター職人は中国ではまだ少数派である。その制作過程と理念は通常の工場とは大きく違い、手作りギターを深く知る人も少なく、 方平と彼の仕事を記録しなければならないと思った。卒制として認められ、短期間ではあったが中国で撮影を行った。ただ、限られた撮影期間では最初から最後までギターの誕生を記録することは難しい。興味深い方平の人生の軌跡に作品の基軸を置くことにした。
中国では、彼のような５０代のギター制作者には、演奏のキャリアを持つ者が多い中で、方平は四川の山奥にある農村から上京し、学歴もない、この仕事に対する情熱や才能だけで今日まで来たことは特筆すべき存在だとに感じた。それで「方平のギター」から「方平とギター」という主題にした。仕事はもちろんのこと、仕事以外の彼、昔の彼、他人から見た彼を作品に織り込んだ。
彼の何十年もの努力や辛さをいくつかのフレーズでまとめられることはできないが、その経験は日々のギター制作に凝縮されている。彼はこの仕事を通して今日までにたくさんのことを得てきたのである。彼の人生はギターのおかげで充実していった。方平とこの仕事に対する思いや関係は非常に特別なものあるに違いない。その思いこそ、私がこの映画を作るモチベーションである。