内モンゴル自治区はモンゴル国との国境を接した中国の山間部に位置する。モンゴルと言えば果てしない砂漠と騎馬民族のテント（パオ）をイメージするものが多いかもしれないが、都市部では急速に開発が進み、タワーマンションが林立している。中国では、経済的発展や社会的な変化に伴い、女性の教育水準が大幅に向上し、自立が進んだ。自ら起業する女性が増加傾向にあるという統計もある。起業する女性は毎年着実に増加しているが、社会の古い論理感の影響もあり、依然として家事のほとんどを負わなければならないという考え方が根強い。家事と仕事のバランスをとるため、いづれかを断念する女性も少なくない。本作の主人公は、豊かな夫に恵まれ、一見、何の不自由もないかと思われるが、三姉妹の末娘は、自閉症であった。
中国の人口13億人の内、少なくとも1,000万人以上は自閉症だと言われている。その子供の数は毎年16万人以上増加している。 自閉症の発生率は女性よりも男性の方が高く、男性と女性の比率は約4:1～7:1。
早期の対応により自閉症児の能力は向上する可能性が高く、多くのケースでは2～3歳で自閉症と診断されても、90%以上が6歳で小学校に入学し、通常の授業に通うことができる。自閉症の子供の中には、普通の子供と同じような能力やIQを持っている者もいるが、人間関係に問題があり、異なる環境で異なる課題に遭遇する可能性がある。本作の家族でも、働く母にとって仕事と育児の両立は厳しい試練でもある。

中国内モンゴル自治区赤峰市にある暖かい5人の家族がいる。娘の3人は、小学六年生の許美琪キキ、次女は小学四年生の許霊心シンシン、三女の小学一年生の許紫衣イイは3歳の頃に自閉症と判定された。
夫の家族は牛肉や羊の肉を生産している大企業で、火鍋レストラン「43°9」の社長。
妻、柳黎リュウリは33歳。火鍋レストラン「43°9 」に併設された「ビジネス科紫衣学院」（社員をトレーニングする部門）の学院長。
タイトルのママは中国語で「母親」の意味。柳黎は学院長と花屋の経営者。妻、三人娘の『ママ』として日々を追われている。柳黎は「自分の人生を生きたい」と思い、中学生からの夢であった花屋を開くことを決意する。花の勉強のため北京へ、帰ってからも花屋の開店準備に追われ、家族との時間はどんどん減っていく。仕事上のドラブルもあり、思春期を迎えようとしている２人の娘と、もっとも手のかかる自閉症の三女の特殊教育など、考えられないほどの時間と労力が割かれる。柳黎は、家族と夢の両立を果たすことができるだろうか。

本作の主人公“媽媽（ママ）”は私の母の妹。仲の良い二人は昔から一緒に遊ぶ事が多かった。私の記憶の中では、柳黎はまだ学生でした、私のお姉さんみたい。その後柳さんは大学試験に失敗し、北京で就職し始め、職場で今の夫と出会った。やがて小学生の私は花嫁の介添えとして初めて結婚式を参加した。どんな少女でも憧れる夢のような盛大の結婚式で、これから柳さんの生活は幸福で豊かになると思いながら羨ましかった。
結婚した後も、母は柳さんとの繋がりを続けている。柳さん一家はいつも大歓迎で私達を招待してくれるので、休みの時はよく内モンゴルに行って柳さんを訪ねる。娘が三人に増えてから、次第に柳さん家が嫌になっていった。女の子の大声や泣き声が煩くなる。柳さんは仕事に誠実で向上心のある人だから忙しい。いつも子供たちの周りに居られるわけではない。時々、私の母は「彼女は多分、娘を介護してくれる人がほしいから呼ばれたのかもしれない」と私に冗談を言う。
三女の紫衣が自閉症ということも母が教えてくれた。でもこのドキュメンタリーを作り始めた直前でも、私は彼女が自閉症だとは思わなかった。中国のネット用語では、自分に失望した時は“自閉した”と言うが、実際自閉症の認識がある人は少ない。紫衣の行為はいつも“まだ小さいだから”と思って正当化された。だから今回の撮影を通して、私はあらためて自閉症を理解した。