
中国の糸操り人形〈提線木偶〉はロープや糸で操る人形劇で、その起源は中国西漢時代の祭祀に由来するとされる。祈りの場から祝祭へと用途が広がったのち、宋代には多様な形式が記され、古い伝説や出土資料にもその存在が確認されている。
長い歴史の中で各地で独自の発展を遂げ、特に福建省 泉州では緻密な技術と豊かな表現をもつ芸術として継承されてきた。現代でも祭礼劇から大衆劇、さらには中国映画の歴代興行収入最高記録を達成した中国神話の英雄・ナタ(哪吒)が成長していく物語を題材にした演目など、多様な舞台が上演され続けている。
泉州では、こうした伝統を未来へ繋ぐ若い担い手たちが学び、日々、操り糸と向き合っている。彼らの指先に宿る“技”と“時間”こそが、長い時間をかけて受け継がれてきた文化をいまに生かし、新たな歴史を紡ぎ続けているのだ。

泉州芸術学校で糸操り人形劇を学ぶ林培為は、人形劇を家業としてきた家に生まれた。
幼い頃から家族が舞台に立つ姿を見てきた彼にとって、糸を操ることは自然で身近な行為だが、その背後には長く続く歴史とその責任もある。卒業公演を控え、学校での稽古は一層厳しさを増す。
指先の角度、糸の張り具合、ほんの数ミリの重心の移動。
その積み重ねだけが、人形に“生”を宿す。授業が終われば友人と山に登り、恋人と笑い、若者としての日々を過ごす一方で、心のどこかには伝統を継承するという重責がある。
本作は、公演本番の華やかな瞬間ではなく、そこに至るまでの迷いや努力、静かな時間を丁寧にすくい取る。伝統を受け継ぐとは、決して決意や使命だけではなく、揺れ動きながら選び続ける過程そのものなのだ。

林培為
林文榮
傅端鳳
沈蘇革
張耀華
林世坤
泉州芸術学校人形専攻学生
許瑞桐 蕭少宇
孫函錚 李梓涵
黄鑑涵 王涵瑶
劉潤汐 潘書靖
呉氷欣 呉諾甚
鄭媛媛 陳鈺靈
監督:鄭紀元
プロデューサー:関博元
撮影:王澤賛、李伊虹、橋本果音
録音:張倬斉、関博元
編集:王澤賛
字幕:橋本果音、黒澤研太
使用演目:『四海龍王賀寿』『押解』『捉魂・速報審』『斬韓信・擒韓』
協力:洪世鍵、張弓、戴勲、蔡思雅、許准、張白雲、陳妹娘、林金満、林凱烜、王嵐松、泉州市人形劇院、泉州市糸操り人形伝承保護センター、福建省泉州芸術学校、泉州市豊沢区東湖実験小学校、晋江市潭小学校、泉州放送テレビ局、泉州南少林寺、野遊記
閩南語翻訳:庄三妙
タイトルデザイン:橋本恵泉
<作品宣伝チーム>
配給宣伝企画書:関博元
プレス資料原稿:橋本果音
メインビジュアル:張倬斉
予告篇:王澤賛
SNS:李伊虹
上映会:鄭紀元

私にとって、『糸はまだ切れず』の制作は大きな挑戦でした。以前から中国の無形文化遺産をテーマにしたドキュメンタリーを撮りたいと思っていましたが、テーマ選びに迷っていたとき、偶然泉州の糸操り人形の動画に出会い、人形が操作者の手で生き生きと動く姿に強く心を打たれました。それをきっかけに、泉州の人形劇団や芸術学校の先生方とつながることができました。
撮影では、政府機関の劇団ならではの撮影許可の取りやすさという利点がある一方で、内容には制限がありました。限られた上映時間で2000年以上の歴史を持つ糸操り人形の魅力を伝えることや、先生方の多忙なスケジュールに合わせることも課題でした。最終的に、芸術学校にいる若い学徒の林培為を主人公に据え、新世代の伝承者の視点から物語を描くことにしました。
糸操り人形劇の習得は長年の積み重ねが必要で、学徒も少なく技術は非常に難しいです。林培為は芸術学校の生徒だけでなく、彼の家族代々もこの芸術に携わっており、彼が直面する悩みは現代の若い伝承者たちが抱える共通の課題でもあります。私たちは彼の日常に密着し、学徒の視点を通して、現在の伝承の現実を観客に届けようとしました。
予算や時間の制約で成長の全ては記録できませんでしたが、この「未完成」は未来への可能性を象徴しています。多くの人々が糸操り人形に関心を持ち、学徒たちの前進をそっと後押しできることを願っています。
監督:鄭紀元