「上映企画ワークショップ」を受講する学生たちが5月10日(金)~12日(日)にかけ、川崎市アートセンターにて映画祭「花火と爆弾」を開催しました。
このワークショップは学生がテーマを決めて各々の企画をプレゼン、選ばれた一つのテーマを練り直し、作品選定からゲストの交渉を手がけ、その総仕上げとして上映会を開催するものです。
第9回目となる今回のテーマは「花火と爆弾」。同じ原料から作られるのに使い方次第で人を楽しませも殺めもする両者を、それぞれが登場する計9本の映画を通して比較しました。
特別ゲストを招いてのトークショーを行った映画もあり、盛況のうちに幕を閉じました。
企画リーダー:竹内清訓(身体表現・俳優コース4年)さんより
「花火は下から打ち上げて、空で散開して祈りの花火になるが、同じ火薬を上から落とすと爆弾になってしまう。戦争による爆弾は敵を滅ぼし、経済を生むため、世界は花火より爆弾の方が多い。しかし、人間に爆弾をつくる力も花火をつくる力も同等にあるならば、爆弾ではなく、花火をつくる方向に向かおう」これは、映画『この空の花―⻑岡花火物語』で大林宣彦監督が作品に込めた言葉である。
『花火と爆弾』。
この二つは実に多くの映画に象徴的に登場する。
いま、東欧(ロシア・ウクライナ)、中東(パレスチナ・イスラエル)で勃発している戦争、そして中国・台湾問題に端を発するアジアを巻き込んだ不穏な世界情勢の中、同じ火薬から作られながら、使い方次第で人を楽しませも殺めもする “花火と爆弾” の登場する映画を見比べることで鑑賞者に戦争の意義と人類の選択する未来を問う上映会を企画した。
上映作品
5.10[金]
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』1974年 監督:山田洋次
『野火(1959年版)』1959年 監督:市川崑
『野火(2015年版)』2015年 監督:塚本晋也
5.11[土]
『黒い雨』1989年 監督:今村昌平
『この世界の片隅に』2016年 監督:片渕須直
『ガーダ パレスチナの詩』2005年 監督:古居みずえ
5.12[日]
『線香花火』2022年 監督:黒木瞳
『座頭市 あばれ凧』1964年 監督:池広一夫
『この空の花―長岡花火物語』2012年 監督:大林宣彦


竹内リーダーのコメント
塚本晋也監督には多忙な撮影の合間を縫ってオンライン出演願った。
「ぜひ塚本作品を上映してお話を伺いたい」というのが実⾏委員の念願であった。それは『鉄男』から続く塚本作品のファンということもあるが、多くを⾃主制作され監督・主演をはじめ幾つもの役割を担当する塚本監督の映画作りの姿勢は学⽣にとって最⾼のお⼿本になると考えたからである。実際、上映作品『野⽕』では製作・脚本・監督・主演・撮影・編集など⼀⼈6役も務め、作品は世界中で熱狂的な⼈気を博している。
学⽣代表質問者という形で⾝体表現・俳優コースの⽵内清訓(企画リーダー)がインタビューにあたった。
『映画監督・塚本晋也の使命感と託されしもの』そして『塚本晋也流映画製作術』。この2つのテーマで塚本晋也監督に迫った。


竹内リーダーのコメント
古居みずえ監督にはオンライン出演、安岡卓治プロデューサーには会場にご登壇いただき、お二人でリモート対談を行っていただいた。
この回は女性客が多くを占めた。対談ではお二人のお話に熱心に耳を傾ける観客の姿が印象的でしあった。上映後の会場からの質問ではガーダさんが書かれているパレスチナの書籍についての問い合わせもあった。
日本映画大学でドキュメンタリーを教える安岡教授の授業で「ドキュメンタリーに一番必要なのは取材対象者との信頼関係である」と教わった。古居監督は言葉も文化も風習も違うガーダさんと12年の長きにわたって信頼関係を築かれ今なおそれは続いていらっしゃる。信頼関係の深さが作品の深さや普遍性に直結しているのだと改めて気付かされた対談となった。
また監督の「パレスチナは危険だけれど行けば元気になる」「日本はそれほど安全と思えない」というお言葉も何か今の日本の危うさを象徴しているようで印象に残った。
対談終了後、上映会の感想をすぐさまSNSにアップしてくださるお客様や感想を共有してくれるお客様でロビーが溢れた。みな何かを語らずにはいられなかったようである。こういうお客様との交流も上映会の醍醐味であった。
そんな中、私たち実行委員でも気づかなかった視点で上映会の感想をいただいた。
この日は今村昌平監督『黒い雨』、片渕須直監督『この世界の片隅に』の2作品で原爆という最悪の花火を広島市内と市外の軍港・呉から描いた映画を比較してみようという趣向を凝らした。そしてドキュメンタリー映画『ガーダ パレスチナの詩』の3本上映である。上映後、3作品を続けて鑑賞された映画批評家の女性から「上映会のテーマは[花火と爆弾]だけれど今日のラインナップは[女性の婚姻と爆弾]でもあった」とお言葉を頂戴した。なるほどそうであった。
この日の3作に通底していたのは爆弾によって犠牲になったの女性の結婚と自立であった。古居監督がパレスチナの地で女性の視点で捉えたテーマはまさにそれであったと思い至った。


竹内リーダーのコメント
この上映会は大林宣彦監督の言葉と『この空の花―長岡花火物語』があったからこそ生まれた企画でもある。大林監督いわく反戦ではなく嫌戦。戦争反対といった二元論ではなく、今の世界情勢のシナリオの流れは危ういよ嫌だよということに少しでも気づいてもらえればというメッセージでもあった。
上映最終日は大林ファミリーからゲストをお迎えすることができた。大林監督の御息女であり本作では主にキャスティング、メイキングを担当された映画作家の大林千茱萸さんと千茱萸さんの夫であり本作ではデスクを担当された漫画家の森泉岳土さんにご登壇いただいた。
そして司会進行役を日本映画大学准教授の熊澤誓人監督に務めていただいた。熊澤監督は大林宣彦作品を観て映画監督を志し、大林監督と同じ成城大学に入学し、東宝株式会社に入社して映画監督になられた方である。こんなご縁のある方にぜひ司会をしていただきたいと実行委員の無理なお願いを快く引き受けてくださった。
千茱萸さん、森泉さんのお話を伺っていくうちに映画の力というものを改めて感じ取ることができたように思う。なぜ大林作品は世代を超えてこれほど多くのファンを魅了し続けるのか。この日、トークショーのスクリーンには大林恭子著『生きることと、明日を 大林宣彦との六十年』と森泉岳土著『ぼくの大林宣彦クロニクル』2冊の本を映し出していた。
恭子さん、森泉さんの両著を拝読し、その秘密がご家族、そして大林組というファミリーにあったのだと知ることができた。そしてそれこそが大林作品の持つ映画の力の源であったと思い至った。だからこそオンリーワンの映画が生まれるのだと。
実行委員の学生からの謝辞
授業の一環として、映画作りとはまた違う、映画に関わる喜びを実感できた[上映企画WS]であった。無事3日間の上映会を終えることができたのも多くの方々に支えていただいたおかげである。
上映会にお越しくださった観客の皆様。
ご登壇、ご出演いただいたゲストの皆様。
川崎市アートセンターの大矢ディレクターをはじめスタッフの皆様。
各映画配給会社の皆様。
株式会社曽根印刷の曽根様。
日本映画大学の教員の皆様。
日本映画大学 学生支援部の皆様。
そして3名の未熟な実行委員に懇切丁寧にご指導くださった石坂健治教授に感謝申し上げる。
「最悪の花火が原爆だ」
天願学長から頂戴した言葉を胸に、これからも映画に向き合って参りたい。
〈実行委員〉
竹内清訓(身体表現・俳優コース4年)
横山 唯(身体表現・俳優コース4年)
劉 芸知(演出コース4年)
