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録音

藤本 賢一

fujimoto kenichi
技術を覚えたのは
謝りたくないから

本田さんの事務所に集まっていた人たちはちょっと変わっていて、昔の活動屋みたいな感じではなかったんです。そこで僕は「録音は演出も考えないとダメだ」と教わって、いまでもその考えが身についています。

だから監督と話すときは、作品の内容に関することが多い。監督が一番求めているものは技術やクオリティではないんです。

もちろん音質が良いにこしたことはないですけど、それよりも監督が不安になってるところで、「大丈夫です。任せて」と技師に言ってもらいたいだろうし、現場では芸術的な能力だけで結ばれることはあまりないと思います。

やっぱり作品そのものについて考えてくれる人の方が一緒にものをつくるにはいいんじゃないかなって。

それでも技術を覚えたのは、現場やスタジオで謝りたくないから。「そんなことも知らねえの?」と言われると、はらわたが煮えくり返えるぐらい悔しい。でも知っていれば、そんな気持ちにならなくて済むわけです。

「この仕事をもう少し続けよう」
と思える出来事が栄養

録音という仕事は、やっぱり技師になってからが楽しいです。どんなに優秀なチーフ助手で、場をしきって技師のために良い音を送っても「全然楽しくねえな」と思う時期はありましたから(笑)。

助手時代の楽しみは、あご足タダでいろんなところに行けるということでした(笑)。その中で、何年かに一度「この仕事をもう少し続けよう」と思える出来事があるんです。

たとえば撮影で海外へ行って、そこで出会ったスタッフや俳優さんと一緒にものをつくると、撮影後は人種関係なく、毎回感動させられて日本に帰ってくるんです。

音楽は国境を越えるじゃないですけど、映画も国境を越えるんです。現場では、習慣や仕事のやり方が違ってぶつかることもある。でも、最後まで気を張って現場が終わると、打ち上げで「オレたちはお前の要求に応えられたのか?」「最初のうちは至らなくてごめんな」とか、言われるわけです。

そうすると「なんであのとき普通にお礼を言えなかったんだ」と思って、どのスタッフも「もう一回一緒につくろう」と言ってくれるんですよね。こんな想いができるなら、もうちょっと続けよう、という風に感じて10年やったんです。

合間合間で転機となる
作品に出会えている

「もうこの仕事はいいかな」と思うと、またそういう作品に巡り会う(笑)。都内でも、地方ロケでも、日本でも同じようなことがあります。

初めてやったスタッフといい関係になれることもあるし、いままで大してしゃべったことのない人間と、少しもめたことで、腹を割って話せて「同世代だしやってて良かったな」と思うこともあったりする。

合間合間でそういう転機があるから、仕事を続けられているんだと思います。

録音に向いているのはこんな人!

昭和くさい奴

「スカイウォーカー・サウンドでミキシングしたいんですよ」という夢見る瞳で来られても、1年目は台詞を録るために暑い中、1日中セミを追わせたりする。あと「腕立て50回」とか。そこで「録音と何が関係あるんですか?」と言うような奴は、そこで「おつかれ」となる。

ジャッキー・チェンが好きだったりすると、「セミを追っているだけで金もらえるの?」という発想になれるのに。日本映画大学には、そういうことについて来れる昭和臭い奴が入ってくれるんじゃないかな(笑)。やはりブーム(マイクのついた竿)を安定して振るためには、力は必要です。

[photo]小坂真 初出:FULLSIZE vol.2(2010年2月取材)。FULLSIZE’(2016年発行)に転載した記事を再構成

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