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映画監督

橋本 光二郎

hashimoto kojiro
声に出して伝えれば
実現する可能性が生まれてくる

2014年、『秘密屋』というビデオ映画シリーズの1本目の監督を任されました。僕に声をかけてくれたのは、後に劇場デビュー作品『orange -オレンジ-』のメインプロデューサーを務めることになる石黒さん。そのときも自己紹介のつもりで企画書を渡していて、そのなかに人気漫画『orange』を映画化するという企画もあったんです。

でも『orange』はすでに別の監督で企画が動き始めていたので、最初は「そうですか、残念」と、なりました。ところがしばらくして、その監督さんが撮れないことになり、お鉢が回ってきた……と説明すると簡単に決まったように聞こえるかもしれないですね。

でもそれも、企画書を見せていたからいただけたお話。そうでなければ、声はかからなかった。やりたいことは声に出して言っておけば実現する可能性がある、と実感しました。

定説をくつがえした
友情と成長の物語

『orange』が完成して公開されると、どんな風にお客さんに届いているのか気になって気になって。劇場に足を運んでは、客席の反応をうかがって……完全に怪しい人物でしたね(笑)。

結果的に興行収入は32億円を越えることができました。同時期に公開される作品に直接的なライバルが少なかったこと、土屋太鳳ちゃんと山﨑賢人くんという朝ドラ『まれ』コンビが観客を惹きつけたことなどがヒットに結びついたんだと思います。

それと……要因はもうひとつあると僕は考えています。少女漫画原作の映画がたくさんあって、恋愛要素に重きを置いた作品が多いなか、『orange』は、友だちの命を救うために何もできなかった女の子が覚悟を決めて一歩一歩成長する物語。

業界では「女の子ターゲットの恋愛映画は興収20億円が限界」と言われているんです。ひょっとしたら、残りの12億をもたらしたのは、恋愛映画ではなく、友情と成長の物語を楽しみに来てくださった方なんじゃないか。……そうあってほしいな、と思っています(笑)。

好きだと感じたら
やってみてほしい

インターネットがない時代、映画の仕事に就くということ自体、魔物が住む場所に足を踏み込むような行為でした。でもいまは情報を得ることができるし、映画業界は怖い世界でもない。もし興味を持った人であれば、挑戦してもらいたいです。

僕は、15年間助監督を、5年間演出家を続けたことで、なんとか監督デビューできた。「凡人なりにがんばっています」という気概もある。そこに自分の才能があるかどうかにとらわれず、好きだと感じるのであれば、一緒に映画を撮ろうよ、待っているよと伝えたいです。

映画界に向いているのはこんな人

あきらめずに続けること

監督・脚本コースは200人くらいいたんですが、卒業してこの業界に入ったのは20人くらい。180人はほかの仕事に就いた。2年後、業界の同窓生は10人になっていた。いまに至っては、僕を含めて6人。そういう世界なんです。

「最大の才能はやめないこと」だと先輩たちから、よく言われました。人によっては、どうしようもない状況だってあるかもしれない。それでも続けることが大事。あきらめないでやってみてください。

[photo]稲垣純也 FULLSIZE’(2016年発行)に掲載した記事を再構成

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※当時と違い、現在の日本映画大学では、
 コース名称と内容が変わったり、
 開講されていないコースがあります。