仕事の度にそんなデモンストレーションを続けているうち、「『サイボーグ009』を新たに映画化する」という話が耳に入ってきた。
生まれて初めて真似描きしたのが『009』の主人公だったくらい石ノ森章太郎先生が大好きだったし、当時『攻殻機動隊』にハマッていた自分としては監督が神山健治さんということもあって、即座に「やりたい!」と。
顔だけですが、一晩でCGで主役のモデルをつくって翌日に先方にお見せしたら、「これでお願いします」とサンジゲンにアニメーション制作を任せていただけました。
──それが「モデリング&アニメーション・ディレクター」の肩書きで参加した『009 RE:CYBORG』。
作業は大変でしたけど、神山さんと仕事ができて光栄でした。舞台挨拶で「もう死んでもいい」と漏らしたら、神山さんが「死なないで」と言ってくれて、それもうれしかった(笑)。
53歳にもなって
めちゃくちゃ怒られる
──そして昨年、監督デビューを果たされましたが、CGディレクターと演出では求められるものが全然違う気がします。どうやってスムーズに移行されたのでしょう。
スムーズではないです(笑)。『D4DJ』第1期(『~First Mix』)に副監督という立場で総監督の水島精二さんに付いて学んで、第2期(『~All Mix』)に水島さんのもとで監督デビューしたのですが、相当スパルタで……。
僕、去年53歳でしたけど、そんな歳なのにめちゃくちゃ怒られて(笑)。
──どういうところが怒られるんですか?
水島さんは「いろいろやってきたから、ある程度できるでしょう」と想像していたけど、思った以上に僕ができなかった(笑)。
──演出の仕方ですか?
監督はいろんなことができなくてはいけない。時間のないなか、次々に決断を迫られる。僕は判断に時間がかかったり、考えが及ばなかったりして……。
──技術面ではなく、監督としてのスタンスについて、ということですね。
そこには技術も絡んでいます。引き出しがないと発想も浮かばないし、先に進めませんから。
もちろん心構えの面で教わったことも少なくありません。たとえば打ち合わせの際、それが本当の打ち合わせになるのは、その場の思いつきではなく、ちゃんと準備をしているからだ、とか。逆に準備が間に合わなかったときは、できているフリをする、とか(笑)。スタッフに動揺を見せてはいけないですから。
──たしかにそうですね。
当時は水島さんと顔を合わせるのもしんどかったのですが、いまとなってはよくまあ、つき合ってくださったと感謝しています。
──監督の醍醐味をお聞かせください。
「自分の作品としてつくっていいんだ」ということです。ここぞとばかりに好きだった声優さんに声を当ててもらったり(笑)。
逆に言うと、いままでは他人の世界観を表現することばかりをやってきた。監督は自分の表現したいものをしっかり出すことが大事だと実感しています。そのためには、どんなに迷惑をかけようが我を通す、わがままを言うことも大切。
ただしどこかに理性的な部分は必要です。「予算的に無理」とか、「この方法がプロダクション的に効率いい」とか、そういう判断ができる人は向いていると思います。
オススメ一本!
いまこそオリジナルに触れるべき
『機動戦士ガンダム』
若い頃なら『ブレードランナー』と言ったでしょうけど、あの衝撃作もいまの人にとってはありふれた映像になってしまった。なので……ファーストガンダムですかね。
いまもシリーズは流行っていますけど、ファーストを観ていない人が多い。物語は面白いし、富野由悠季さんの演出もトガッている。じいさんがよく「古典を観るべきじゃ」って言うけれど、それとはちょっと違って、「オリジナルはやっぱりすごいよ」という話です。
トガッているという点では『伝説巨神イデオン』と言いたい気持ちもあるんだけど、わかりやすいので『ガンダム』を挙げておきます(笑)。
[photo]久田路 2024年1月にサンジゲン立川スタジオで行ったインタビュー