そうこうしている間に僕もドラマや映画を担当するようになり、2019年に「本格的に動くので編集で入ってほしい」と依頼されたんです。
僕が入ったときにはだいたいの構成は決まっていて、コンテをつなぎ合わせたビデオコンテがすでにありました。それを観て、「ここは引きのカットだけでもいいのでは」とか「ここを切るかわりにこういうセリフを足すとよりテーマが伝わりやすくなるのでは」などと提案していきました。
井上監督はどんな細かなことでも作品をよくするために意見を聞きたいという方。作業中、僕が「あ」と一言でも発しようものなら、「気になるから言って」と。そうして「それはいいですね」「それはちょっと違うかな」と詰めていく。
「違ったね」となった場合でも
新しい発見は必ずある
──振り返ってみて、ターニングポイントといったらなんでしょう?
作品としては『鈴木先生』や『リトル・フォレスト』が大きいです。でも、いまご一緒する監督やプロデューサーと出会った仕事は映画・ドラマに限らない。CMだろうが、知り合いづてに頼まれた結婚式ムービーだろうが、受けた仕事へ、がむしゃらに真剣に取り組んだ結果が現在に繋がっているのだと思います。
──編集としての特性について、ご自身ではどう考えていらっしゃいますか?
僕自身はセンスよりも、セオリーに当てはめるタイプなんです。だからこそ、型にはめない、「絶対にこれが正しい」と決めつけないよう意識しています。
自分の感覚で「ない」と思った繋ぎでも、監督が言うなら一度トライする。もし「やっぱり違ったね」となっても、「だったらこうしてみませんか」という新しい発見があるんです。無駄なことも無駄じゃない。
カットを並べることでイメージを具体化するのが僕の仕事。監督の想像をも超えるものを提案をし続けていきたいし、それができなくなったら引退です(笑)。
──お仕事の充実ぶりが伝わってきます。
いまはVFXを主軸にするKASSENという会社に所属しています。編集とは別のジャンルの方々と一緒にものづくりをすると、「CGだとなぜこんなことができるのか」「こうやって撮影するとよかったのか」などと、素材に触れただけでも発想が広がっていく。また新しいチャレンジができるんじゃないかと感じています。
すべての経験が
結果として返ってくる
──編集の醍醐味といったらなんでしょう。
みなさんが汗水垂らして撮ってきた撮影素材に最初に触れられる。もちろん責任は重いけれど、それは純粋に楽しいし、その喜びは学生時代から変わらない。一日の作業を終えて「今日も楽しかったな」と余韻が残り続けるときもあります。贅沢ですよね。
──若い世代に向けてなにかアドバイスがあれば。
「自分はこれをやりたい」という意思表示を続けることが大事だと思います。それから、〝過酷な現場を除いて〟ですが、若いうちはいろいろやった方がいい。僕も、撮影現場の手伝いや、プロデューサーのサポート、エキストラを集めるためのビラ配りなどを経験しました。映画っていろんな要素でできていて、その経験は結果的に返ってくるんです。気がついたら僕が『~SLAM DUNK』に関わっていたように。それまであっという間でしたけど。
──いつの間にか遠いところまで来ていたという感覚ですか?
いえ、感覚的には学生時代からあまり変わっていない気がします。いまがピークというわけでもないですし、まだまだ面白いことが待っているんじゃないかとワクワクしています。
編集に向いているのはこんな人
無我夢中でプラモデルの色塗りをできるような人
映画はみんなでつくるものですが、プラモデルづくりのように、ひとりでひたすら物語を繋いでいく感覚を楽しめる人は編集に向いていると思います。コミュニケーションが苦手な人でも技術があればできます。
これは編集に限りませんが、「ずっと同じ作品に関わり続けない」ってよいことなんです。「この現場キツかったな」と感じたとしても、2ヶ月後には現場が終わりますから。「楽しかったな。いつかまたこのスタッフとやりたいな」っと思っても終わってしまう。でも次の作品に入れば、また新しい出会いがある。これが〝映画の沼を抜け出せない〟理由でもあるのですが(笑)。
[photo]久田路 2022年12月に行ったインタビュー