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アニメーション監督・演出家

谷口 悟朗

taniguchi goro
映画『ONE PIECE』シリーズは
アニメ業界から無視されてきた。

絵が動くのを見せるわけですから、アニメーターという存在はやっぱりスターです。でも映像の大きな流れをコントロールするときに、自分の絵の描き方や技量が枷になることがある。一方、アニメーター出身ではない監督は「今回は劇画チックにやってみよう」「マンガチックに」とか、自由に飛べる。
それにアニメーター出身じゃない監督で優秀な方をたくさん目にしていたんです。
絵が描けないことに対する怖れはなかったし、むしろ描けない方が得だと思っていました。

これまでのファン以外の人たちを
引っ張ってくるしかない

──『ONE PIECE FLIM RED』の監督の依頼があったのはなぜだと思いますか?

50、60億円というこれまでの興行成績の上を狙うとするなら、なにか別の新しい要素がなければいけない。それを期待されたんです。「100億を超えたい」というオーダーには、「あはは」と笑って返しましたけど(笑)。
『コナン』や『ドラえもん』と違って、毎年製作するわけでないから、お客さんに映画館で観る習慣がない。原作の読者層には「テレビで放送されてから観ればいい」という人も多い。映画『ONE PIECE』のファンだけに頼るのなら、いまの数字が限界。「では何を足す?」となると、これまでのファン以外の人たちを引っ張ってくるしかない。

──具体的には?

これまでと違う『ONE PIECE』をつくろうとは思わなかった。延長線上で、映画館でしか体験できないものを組み込んでいけば、新規の人が増え、結果としていままでの売上を上回ることができるという計算はありました。
『ONE PIECE』シリーズはアニメ業界から無視されてきたんです。だって、アニメ誌はどこも特集をやらない。つまりファン層は一般的な日本人であって、オタク層が少ない。なので、アニメ誌の表紙を一回ぐらい取れたらすぐ彼らに訴求できただろうと思います、これは実現しなかったのですが。

──国内の興行収入だけでも197億円(最終成績は203.3億円)を記録しました。一番の要因はなんでしょう。

私が担ったのは100億円までです。そこから先に進めたのは、ファンの方たちや宣伝担当の方たちのスイッチがどこかで入ったからだと思います。全員の意識が変わったことで、大きな波になった。本当に感謝しています。

小津的な演出と溝口的な演出
両方をうまく組み合わせた作品を

──監督の醍醐味をお聞かせください。

一番最初のラッシュです。苦労してつくってきた映像、画面、キャラクターが、少しでも動いた瞬間が一番楽しい。「あ、動いてる動いてる!」という風に。
それと、ここ数年でやろうとしているのは、小津安二郎的なつくり方に、真逆である溝口健二的なものを入れられないかという試行です。
小津安二郎的とは、たとえば「そこで振り向いて、心のなかで3秒数えてから立ち上がってくれ」という演出。画角に映るものの位置や動きをすべて制御する演出で、これがまさにアニメのつくり方。
一方実写では、俳優の動きや背景など、イレギュラーな要素が入ってくることがあるじゃないですか。そこを生かす。溝口的と言ったのはこのことです。対象に対して直接アプローチする、と言えばいいでしょうか。

──『~FILM RED』に溝口的要素は採り入れていますか?

MIKIKOさんにお願いした振付はそのひとつです。大きいサイズで映るダンスは作画して置き換えましたが、そうでないものはモーションキャプチャーでつくったCGのまま。作画かCGかは生っぽく見えるかどうかがポイントでした。
アフレコは定尺を出さずに行いました。役者さんのセリフが早上がりしたり、こぼれたりすることがあっても、セリフに合わせて絵を全部直したんです。
そういう意味で、コントロールできない要素が入っています。
情報コントロールと、イレギュラーな要素の取り込み。ふたつの演出をどういう割合にしてつくっていくかが私にとっての大きな課題であり、興味深いところです。

オススメこの一本

人と人の関係性を描く名作
『鉄道員』

もし監督を目指すなら、ともかく人間に興味を持ってほしい。人間単体ではなく、人と人の関係性から生まれてくるものを捉えることが第一歩だと思います。それさえできれば、コメディであれアクションであれ、どの方向にだって行けるはず。
人間の関係性を中心に観ていくのであれば、イタリア映画の『鉄道員』はわかりやすい作品だと思います。

[photo]久田路 2023年1月に行ったインタビュー

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