──『ゴジラ-1.0』では、ZOZOマリンスタジアムで、ゴジラの鳴き声を流して録音をされました。経緯は?
私はハリウッド映画が大好きで、あちらの手法を調べたりするなかで、会社時代からいつかはやってみたいことが溜まっていたんです。ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』では、町のセットでゴジラの鳴き声の反響音を録ったという記事を見て、「いいな」と。それは私の「いつかやってみたいなリスト」のかなり上位にありました。
──予算がかかりそうですよね。
「やりたい」となかなか口に出せなかったです。前例はないし、どうやって録っていいかもわからない。鳴らしたはいいけど、「何かよくわからない音、録れましたね」みたいになったら大変だし。
まず竹内さんに「どう思いますか?」と。そこから「音の響きを録りたいので、屋根のあるところではダメだね」「すり鉢状で上が空いていて、静かな場所がいい」「どれだけのマイク、人数がいるんだろう」と、なんとなくシミュレーションして、それからプロデューサーに相談したんです。
そうしたら「ZOZOマリンスタジアムにコネクションがある!」「な、なんですと?」と。ちょうどオフシーズンで、選手の自主練習の合間の2時間を貸していただくことができました。
──たった2時間で、セッティングから録音まで?
2種類の鳴き声だけなので。本当たくさんの方に協力していただいて録ることができました。
──スタジオだけでつくる音とは全然違うんですか。
全然響きが違いますね。プラグインだときれいな響きで、伸びも良くなってしまう。『ゴジラ-1.0』では、きれいな響きはいらないと思ったんです。ノイズが入っていても、実際に空気を震わせて録った音の方が説得力があるんじゃないかなと。
実際に収録した音にはゴーという空気音もすごいし、遠くの工場のうなっているような音も入っている。でも、その空気が震えている感覚、禍々しさが、怪獣が発する声の響きに本当にぴったりでした。
作業はめちゃくちゃ楽しかったです。みんなで野球場で「ひゃー!」って言いながら走り回ってました。やっぱりそういう新しいことは面白いですし、やって良かったと思いました。
──クレジットには柴崎さんの名前もありましたね。
はい。柴崎さんには環境音でも協力していただいたり、いろいろ意見をもらいました。あの作品は自分としても初めての経験がたくさんあって、本当にチームでやらせていただきました。自分ひとりではできない作品でした。
仕事で楽しいのは2、3割
完成する瞬間の醍醐味を味わってほしい
──音響の世界は、ドルビーアトモスなど技術がどんどん進化していて、かえって以前より大変になっていないですか?
そうだと思います。プレミアム・ラージ・フォーマットにはこれからもっと挑戦していきたいです。
ただ、やれることが無限だからといって、作品に必要のないことをやっては本末転倒になってしまいます。それを選択していく難しさがよりあるし、そのなかでもアナログなことを忘れず大切にしていきたいです。
──仕事の醍醐味は?
作品が完成する瞬間に立ち会えることです。
ダビング前の作品はふわふわしてるんです。それをミックスとかで音を調整していくとちょっとだけ形になって、最後に監督を交えて「ああでもないこうでもない」ってやっていくと、作品がスッとまとまる瞬間が訪れる。それを目の当たりにできるのが醍醐味だと思います。
ミックスの作業をできるようになるまでには、けっこうな年数がかかるんです。その前に挫折して辞めちゃった若い人がたくさんいます。だけど、1本だけでもミックスするまで続けてみてほしい。すごく楽しいですから。
私もひとりで家のパソコンで作業していると、終わらないし、正解が分からなくなっちゃったりします。やっぱり仕事ってすべての瞬間が楽しいわけじゃないじゃないですか。楽しいのは2、3割だと思うんです。でも、その醍醐味を経験してみてほしいなといつも感じます。若い人にはそこを知って感じてから、映画の仕事を愛してほしいなと思いますね。
オススメ! この1本
究極の音
『メッセージ』
劇中、音で宇宙人の言語までつくっていることに感動しました。
この生物がどういう声帯で、ここが喉だったらこういう風に音が鳴るだろういうことを考えてつくられている。音のなかでも、言語をつくることは究極だなと思います。SFが大好きなので映画としても大好きで、いまでも1年に2回ぐらい観る作品です。
[photo]久田路 2025年1月、日本映画大学新百合ヶ丘キャンパスで行ったインタビュー