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アニメーション監督

小山 保徳

koyama yasunori
「映画をつくるんじゃないの?」
という戸惑いがありました

それはボクシングの試合で、ボクサーの熱に当てられて観客たちも凶暴性を増していく、というシーンでした。狂気を演出している割には塚本監督は淡々としている。それに、カメラの前でコンロを焚いてメラメラ燃える空気感をつくったりとか、アナログな手法でつくっている感じが面白かった。
みんなで一生懸命つくっている雰囲気もすごく良くて。それで自分もやってみたいなと。

──そのエキストラ体験はいつですか?

勉強もせず、毎日映画を観ながらも進路をどうしようかと考えていた高校3年生です。結局、大学に行こうと思ったものの、全部落ちました。浪人時代には父親のシングルエイトのカメラを見つけて、友達と半年をかけて映画を撮りました。側から見ると、なんのための浪人だって感じですよね(笑)。

──その作品はPFFに出したりしました?

出して落ちました。感想を戻してくれるんですけど「意味がよくわからない」と(笑)。脳内にいる別人格のキャラと実生活の自分が殴り合うという話で……もう完全に影響を受けているやつです(笑)。

──その頃には映画の勉強をしようという気持ちに?

なっていました。自主映画を撮ったのも、映画の学校ではいろんな学生たちのなかで埋没しそうなので事前にやっておこうという気持ちがあったから。
日本映画学校のことは、図書館で手に取った本か雑誌に載っていた佐藤闘介さんのコメントに「行くところがなかったので入学した」みたいなことが書いてあったので知りました(笑)。ビデオカメラで実習をする専門学校が多かったなか、日本映画学校は16ミリで作品をつくれたことが大きかったですね。「本格的じゃん」「『鉄男』も16ミリだし」と(笑)。

「学生でこんなクオリティのものが
つくれるんだ」という驚き

──「監督になる」という意気込みで入学されたんですか。

監督しか役割を知らなかったですからね。ほかにもスタッフがいることを知らなかったわけではないですけど、自主映画の延長で「撮りたいものが撮れたらいいな」ぐらいの感覚でした。

──入学してみていかがでしたか?

人間研究という授業に戸惑いました。ひとりの人物にフォーカスを当てて、「人間の営みとは?」とその対象を徹底的に研究する。「映画をつくるんじゃなかったの?」と。ただ、ひとつのテーマを決めて、ほかの人と話し合うという経験が初めてだったので面白かったです。喧嘩じゃないですけど、議論が白熱したりすることも多くて。
生徒には2種類いました。よくわからないけど入学しちゃったという人と、「俺は演出するんだ」とばかりにバチバチに自己顕示欲が強い人と。

──小山さんは後者?

たぶんそうです。けっこうとんがっていたかもしれません、言ってて恥ずかしいけど(笑)。ところが人当たりがいい性格の人にみんなはついていく。当時はそのことに気づいていなかった(笑)。

──2年目にコースが分かれます。

僕が選んだのは演出でなく、美術コースでした。先輩がつくった20分くらいのクレイアニメーションを観たときに「学生でこんなクオリティのものがつくれるんだ」って驚いたんです。
実写の演出をやりたかったけれど、コンテを描いて、背景やキャラクターをつくって、ひとコマずつ撮影する機会って、今後はないだろうなと考えたんです。

──卒業制作もアニメーションを?

20人くらいで脚本を出し合って、みんなでどれを撮るか議論して決めるんですけど、僕の企画が選ばれて、監督・脚本を担当しました。『ブリキの鼓動』というパペットアニメーションです。
いま思うと当時学んだことと現在の仕事では、技術的な共通点はほとんどない。でも人間の心情を人間以外のものを使って表現するという意味では通じているし、そこに面白さを感じている気がします。

フリーランスの仕事を
このまま続けていくのか?

──卒業されてからの歩みは?

卒業制作に比重を置きすぎて、就職活動する時間はなく、後のことは何も考えていませんでした。
ところがありがたいことに、学校が大手の製作会社を紹介してくれて、そこで制作進行と助監督を兼ねたようなプロダクションマネージャーの仕事に就くことになったんです。でもそれも数年で辞めてしまいました。

──辞めた理由は?

忙しすぎたということに加えて、「映画をつくりたい」という気持ちがあって、「ここだと映画は撮れないな」と思ってしまって。その会社は映画もつくっていますから、撮れなくもないはずでしたけどね。

──社内で映画を撮るまでの道のりが厳しいと考えたんですね。

ちょっと間違えました(笑)。

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※当時と違い、現在の日本映画大学では、
 コース名称と内容が変わったり、
 開講されていないコースがあります。