──脚本家の醍醐味をお聞かせください。
昨今、原作者と脚本家の関係が問題になっていますが、アニメというか、少なくとも僕が関わった作品の場合、忙しくて打ち合わせに参加できない原作の先生でも、編集の方を通して密にやりとりはするし、なかには毎回打ち合わせに来てくださる先生もいて、「いいですね」という言葉をもらえたときはうれしいです。
アニメって、脚本を書いてから放送されるまでの期間がとても長い。書き終わって何年か経つまで観る方からの反応がない分、監督やスタッフ、原作の先生から「よかった」という声が聞けるとうれしいですね。
──時間を経て放送される際はどんな気持ちで観るんですか。
ほどよく内容を忘れているので「このシーン、こうなったんだ」とか「あれ? こっからどうやって逆転するんだっけ?」というふうに、いちファンとして観られるところがいいですね。
あとは原作ものの場合、尺が足りなかったりするとオリジナルでシーンを足したりする場合もありまして、そこが原作にうまく溶け込んでいるか、浮いていないか、という部分はいまだにドキドキしますね。
とにかく手を動かして
書いていただけですから
──今後について思い描いていることはありますか?
フリーになったときに立てたとりあえずの目標は一定程度クリアできたかもと思っているので、そろそろ次の次の目標にシフトしないとなと考えているところです。
──クリアした目標をお聞きしてもいいですか?
偉そうに聞こえるかもしれませんが、たとえば「この原作をアニメにします」となったとき、「こいつに任せればとりあえず事故は起きないだろう」と思われるようにはなりたいと思っていました。十全とは言わないまでも、そういうふうな感じになってきたと考えてもいいんじゃないかなと……。
──原作ものである『進撃の巨人』も『呪術廻戦』も大ヒットしました。
『呪術廻戦』は、原作の連載が始まってすぐアニメ化が決まり、脚本執筆の依頼をいただいたので、ここまで大きな作品になったことに「ムーブメントに立ち会えた」という感慨深いものがあります。
『進撃の巨人』に関しては第1期から入ってはいるものの、小林靖子さんがシリーズ構成に立っていて、僕は一番下っ端からのスタート。右も左もわからない素人同然で、とにかく必死に手だけ動かして書いていた、という感じです。
──ヒットは自分の手柄ではないと?
「自分の」だなんて、一切思えないです。どちらも原作がすごいし、監督はじめスタッフやキャストさんの力ですね。これは本当に心の底から毎回思います。
──「落ちこぼれ」とおっしゃいましたが、怠惰なわけではけっしてない。ストイックに書き続けてきたからこそ、現在の活躍があるんですね。
なにごとも人より時間がかかるってことだと思います(笑)。
オススメこの一本
好きな作品を信じること
『アメリカン・グラフィティ』
映画学校時代、僕は「これが好きだ」と言えなかった。でも自分が本当に心から好きなものは、誰がなんと言おうと好きでいいんじゃないかと思います。自分が好きなものを一番大事にしてほしい。
別にそれを公にする必要もないですし、いま現在落ちこぼれてたり劣等生だったりしても「全然ノー・プロブレムだよ」と自分に言い聞かせるためにも、自分の好きなものを信じ続けることは大事かなと思います。それが結果として自分を支えてくれる。
そういう意味で言うと、当時いろいろあっていっぱいいっぱいになっていた僕を救ってくれたのは、途中で学校を辞めちゃった親友が教えてくれた『アメリカン・グラフィティ』です。ウルフマン・ジャック本人が出演していてゴキゲンな音楽がおそろしいくらい贅沢に使われていて、シナリオ的にも最高。いまでも「悲しき街角」が流れるところで泣けてきますね。
[photo]久田路 2024年1月に行ったインタビュー